一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.177   08.06.26配信
================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 何の話かわからない、サスペンスを楽しむ★

作品はこちら
--------------------------------------------------------------------------------
タイトル:『題名のない子守唄』
製作:イタリア/2007年
原題:La sconosciuta 英語題:The Unknown

監督・共同脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)
出演:クセニア・ラパポルト、ミケーレ・プラチド、
   クラウディア・ジェリーニ、ピエラ・デッリ・エスポスティ、
   アレッサンドロ・ヘイベル、クララ・ドッセーナ
---------------------------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
北イタリアのトリエステに、一人の東欧系の女性がやってきた。名はイレーナ。
何者なのか、何をしに来たのか、誰もわからない。やがて彼女は家政婦として
ある家族、貴金属職人のアダケル家に近づいていく。訳ありげなイレーナの正
体? この家族との関係は? この先には何が待ち受けるのか……。

DVD版ではなくなっていたけれど、劇場で観たときには、本編が始まる前に
「日本の観客の皆様へ」とトルナトーレ監督の署名入りで、「この作品には意
外な結末が隠されています。後から観る人のためにどうか結末を話さないでく
ださい」とかなんとか、正確な言葉は忘れたけれど、お願いのメッセージが表
示された。
バカ正直なところのある私は、観てる間、特に物語も後半になると、「仰天の
結末ってこれ?」「驚愕の事実ってこれのこと?」と、いちいちびくびくと意
外な結末探しをしてしまった。あんな警告をしなくても、ネタバレを話す人は
話すし、話さない人は話さないし、あんまり意味なかったんじゃないのかなあ。
それとも、私みたいに、いちいち「え、これのこと? これのこと?」と観て
もらうことを期待したのか。だとしたらまんまと術中にはまったことになる。

そうしてびくびくと観るのもあながち間違いではないかも、と思うのは、この
物語が、誰だかわからない女のなんだかわからない話を眺めることに、少なく
とも前半は主眼があるから。
女はこの家族に何か復讐を企んでいるのかも知れない。
この家族の何かを探っているのかも知れない。
ひどい性的な思い出らしき回想シーンが、短く、フラッシュバックのように、
ところどころに挟み込まれる。そんなところからも、このイレーナは、かつて
自分をひどい目に逢わせて男へ復讐を考えているのでは? と想像させる。

だが、アダケル家に入り込んだ彼女は、幼い娘テアにもすっかりなつかれ、ど
んどん信頼を勝ち取っていく。家族をむしろ幸せへと導いているかのように。
果たして彼女の目的は何だろう。観客は頭フル回転で、この宙ぶらりんサスペ
ンスを楽しむ。もしくは、考えずにわからなさに身を任せて楽しむ。

そんな訳だから、どんな話なのか、これ以上は言わない。確実に何かを企んで
いるらしき見知らぬ女のサスペンスだ。
しかし、しかし。ラストについて一言だけ。物語の帰着としてあのラストは必
要なんだろうなと思いながら、うーーん、私はどこか納得がいかない。そう、
なるもんかなあ。私はそうはいかないと思うぞぉ。ぐじぐじ。
観た方、どう思ったか、ぜひ教えてください。

■COLUMN
世間の評価とは対照的に、ジュゼッペ・トルナトーレ作品は、これまでどうも
相性が悪かった。
名高き『ニュー・シネマ・パラダイス』も、どこで心を動かしてよいやらピン
とこない。この作品、好きな人は「これをわからない奴は人としておかしい」
てな具合ですごんでくるから、あまりおおっぴらにわからん、というのもはば
かられ、「苦手なんだーなんとなく、、、」と下を向くことにしている。今よ
りもっともっととんがっていた若い頃に観たせいかもね、とも思う。が、こち
らも評判高き『マレーナ』も、どこでピンときてよいやらわからなかったとき
には、やっぱりこの監督とは相性というものが徹底的に違うのだ、という結論
に達した。

そんな結論を出しておきながら、この『題名のない子守唄』を観てみようと思っ
たのは、前出2作にピンとできなかったのは、「男の子の物語」だったからじゃ
ないか、という気もしていたから。
その勘は当たったのかもしれない。この監督が女性を主人公にすることは珍し
いらしいが、これまで女性を描かなかったことを意外に思う。女性の悲しみと
か、女性ならではの意地悪な視点とか、女性だからこその身勝手さとか、そん
なものがたくさん盛り込まれているこの作品には、するっと入り込むことがで
きた。

その分、女として、辛いモノつきつけられたな、という痛さは刻まれるけれど、
うまいこと、心をえぐってくれる刺激はある意味で心地よい。
そして同時に、男だ女だ、を超えた、今、この時代を見つめる社会性があるこ
とも、作品に引きつけられた理由であると思う。

昔からのトルナトーレファンにとって、この作品はどうなんだろう。その辺り
の感想も、ぜひ送ってください。

■INFORMATION
・DVD
題名のない子守唄
価格:¥ 3,152(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00147TURM/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

来週7月5日は、配信をお休みします。
7月12日(木)に再開予定です、
が、場合によるともう1週お休みする可能性もあります。
よろしくお願いいたします。

---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2008 Chiyo ANDO

---------------

一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME