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欧 州 映 画 紀 行
                 No.180   08.07.24配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 作り物である幸せ ★

作品はこちら
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タイトル:『アーネスト式プロポーズ』
製作:イギリス・アメリカ/2002年
原題:The Importance of Being Earnest
 
監督・脚本:オリヴァー・パーカー(Oliver Parker)
出演:ルパート・エヴェレット、コリン・ファース、フランシス・オコナー、
   リース・ウィザースプーン、ジュディ・デンチ
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■STORY&COMMENT
オスカー・ワイルドの戯曲『まじめが肝心』を映画化したコメディ。
田舎の貴族ジャックは、架空の弟「アーネスト」という放蕩キャラクターを作
り、アーネストの不始末を口実にたびたびロンドンに出かけていた。
ロンドンではアーネストとして社交界を渡っていたジャック。令嬢グウェンド
レンと恋をしプロポーズし承諾されるも、彼女はアーネストという名の人と結
婚するのが運命なのだというから、さあ困った。
一方、ジャックの友人アルジーは、ジャックが後見人をつとめる令嬢セシリー
に、「アーネスト」をかたって近づくが、今度はセシリーもが、「アーネスト」
と結婚するのが運命だと言い出す。

毎日、暑い。
インターネットを通じてお届けするメルマガだから、バカンスを北極圏で過ご
している人もいるかもしれないし、南半球で暮らしていて極寒だという方に宛
てている可能性もある。だから、皆が共感してくださるわけじゃないだろうけ
れど、とにかくここ東京は暑い。
私は基本「とても寒がり」なので、暑いのは平気な方だ。人が暑いと言いはじ
める頃「やっとちょうどいい気温になったー」とはしゃぐ。が、すごく暑いと、
人並みに暑くてバテる。別に私は格別暑さに強いわけではなかったのだ、と梅
雨が明けると毎年思い知る(ということは毎年忘れるのだ)。

そんな年中行事、暑がる己を思い知る今日この頃、難しいことは考えたくない。
バカみたいな設定、お気楽なハッピーエンド、信じられないようなとんとん拍
子の展開。この暑さでへばった頭にはちょうどいい。

小気味よいセリフの掛け合いが楽しい。字幕に反映されていなかったり、文化
的な知識が足りなくて、わかってないところも多いだろうところがもったいな
いとも思う。
偽名が引き起こすドタバタ、結婚に反対するグウェンドレンの母、真相を知っ
て怒る女性陣、難題は次々とやってくるが、その都度、もしくは最終的に、あ
り得ないくらいにきれいに解決する潔さ。現実の生活ならば、そうはいかない
だろう、と思うから、つまり現実には応用きかず。ここから何かを学び取る必
要はまったくなし。反省とも教訓とも無縁だ。
笑って、くだらなーい、と声を上げ、上映時間を満喫したらそのまま忘れてい
い。そのお気楽さって、実はとても貴重だと思う。

原作の戯曲にほぼ忠実に作られているが、映画オリジナルのシーンにジャック
とアルジーの歌がある。怒った女性陣をなだめるためのデュエット。どっちか
というと下手なところが情けなくてチャーミングだ。舞台では表現できない貴
族のお城やその広々とした庭もみどころ。そして、私が個人的に気に入ってい
るのが、ジュディ・デンチ演ずるグウェンドレンの母の、出てくる度に変わる
派手な帽子。いい味だ。

頭を空っぽにできる笑劇は、本国ではどんな季節に向くのだろう。じっと太陽
と芽吹きを待つ長い冬の間か。それとも季節に関係なく浮き世の煩わしさを追
い払うのか。
もちろん日本でだって、季節に関係なく憂さ晴らしにいい。でも私は、バテた
胃に優しい素麺のごとく、沸いた脳にも心地よく吸収できる真夏が向いている
と思えて仕方がないのだなあ。

■COLUMN
幼い頃、ギャグマンガを読みながら、「なぜこんな風に笑って世を過ごせない
のだろうか」と涙するややこしい子どもだった。
大人になってもう少し気晴らしのしかたはうまくなったとは思うが、三つ子の
魂百まで。作り物の世界への憧憬は変わらない。

そのせいか、例えば「今やってる映画、何観ようかな」とリストアップしたと
きに、「実話をベースにした」などと言われると、「観たい度」の星1つ減る。
もちろん、実話ベースの作品で大好きなものもたくさんある。このメルマガで
も取り上げている。
結局は、一つひとつの作品の質であり、一つひとつの作品に対する好き嫌い。
だから、「好きなタイプ・ジャンル」の話であり、どう宣伝されると観たいな、
と思うか、という次元の話なのだけれど。

予告編などで、「実話を元に」「実際に起こった真実の物語」などと言われる
作品は多く、ということは、そう言われると観たくなる人が多いんだろう。
なんでかなあ。

私は、実話を元にすると、実話の範囲内でしか物語を作れないから、つまんな
いじゃん。それよりは、物語として美しい(ばかばかしい、面白い、くだらな
い、悲しい、緊迫した、etc.)世界を構築する方がいいじゃないかと反射的に
思う。
私とは違って、実話の方が本当に起こったことだから説得力がある、と反射的
に思う人が多い? でも、物語の中の説得力って、本当に起きたかどうかとは、
また別のところにある。
私はだから、実話がベースの場合も、その実際にあったエピソードが物語の世
界としてきれいに成立していれば、たいてい気に入る。エピソードの報告みた
いにしか感じられないと、「だから実話ってつまんない」とむくれる。
本当は「実話であること」には罪はないのだが。

原作者のオスカー・ワイルドは、この作品を「ファルス的」「空想的で荒唐無
稽」「ノンセンス的で、シリアスな興味の的になるものをもっていない」と言っ
たそうだ。
荒唐無稽であっても、劇中での「リアルさ」を作りだしてしまう力、そして、
何らの教訓を見いださなくても(もちろん見いだしたっていいのだけれど)、
その物語の世界の存在自体が面白い。
幼少の私なら、なんでこんなに楽しくトントンと皆幸せにならないだろうかと、
涙しただろうか。

大いなる作り事の世界に、逃げ込ませるのも、逃げ込むのも、実は人類の英知
かな、と、この夏の盛りに思うのだ。

参考資料
『岩波講座 文学 5演劇とパフォーマンス』
http://www.amazon.co.jp/dp/4000112058/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

■DVD INFORMATION
アーネスト式プロポーズ
価格:¥ 3,152(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B0012QE124/ref=nosim/?tag=oushueiga-22


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編集・発行:あんどうちよ

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