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欧 州 映 画 紀 行
                 No.181   08.07.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★言葉を紡ぐ者を無力にする作品を ★

作品はこちら
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タイトル:『トリコロール/赤の愛』
製作:フランス・ポーランド・スイス/1994年
原題:Trois couleurs: Rouge 英語題:Three Colours: Red

監督・共同脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ(Krzysztof Kieslowski)
出演:イレーヌ・ジャコブ、ジャン=ルイ・トランティニャン、
   フレデリック・フェデール、ジャン=ピエール・ロリ
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■STORY&COMMENT
モデルのヴァランティーヌは、ロンドンにいる恋人と遠距離恋愛中。ある日、
犬をひいてしまったことがきっかけである老人と知り合う。この老人は、人を
信用せず、元判事にもかかわらず、近所の家の盗聴をして暮らしている。盗聴
をやめてと頼むヴァランティーヌ。取り合わない老人。しかし、少しずつ二人
の間に不思議なつながりができて……。

96年に急逝した巨匠キェシロフシキ監督によるフランス国旗の3色をモチーフ
に様々な愛の形を表した連作「トリコロール」の1作。
青・白・赤の順に製作、公開されたが、3作中、私はこの「赤」がいちばん好
きだ。
シリーズの最終作品らしく、本作最後には、「青」と「白」の主役カップルが
チラリと登場する。シリーズ全作を観た人には、このシーンも見物。

キェシロフシキ監督の作品を扱うとき、言葉で説明すると、すっかりアホみた
いになるのが困る。前に『ふたりのベロニカ』を取り上げたときも、言葉が無
力であることをしみじみ思った。
参考:http://oushueiga.net/back/film046.html

ストーリーをかいつまんで説明すると、ずいぶん通俗的になってしまいそうだ。
ヴァランティーヌは、恋人がやたらに干渉して嫉妬深いことに居心地の悪さを
覚えている。日々積み重なる不安と苛立ちをかかえ、人を信じず飼い犬もどこ
か邪険に扱う老人に出会い、そこから交流が生まれる。
サイドストーリーに、元判事の若い頃の体験をなぞるかのような、近所の司法
学生の恋愛の行方が差し込まれる。

と、このようにストーリーやエピソードは、安手なドラマにもありそうでもあ
る。でも、この作品世界は、「ありがち」からかけ離れている。
そのギャップの原因のひとつは、映画の中での描き方はもっと漠としているこ
と。私の中で言葉を補って「ストーリー」としているから、通俗的な印象を与
えてしまう。きっと、別の人がまとめると、全然違う切り口になるだろう。

登場人物を、「こんな人」とキャラクターづけできるような、強い個性を表す
何かを提示しない。なのに、ヴァランティーヌも、元判事も、その人そのもの。
画面も観る人の心も支配する。その代わりに、「こんな人」と説明すれば、そ
の像はほころびだらけでどんどん人物から離れてしまう。
電話の向こうに懐かしさと寂しさを感じるヴァランティーヌはそのヴァランティー
ヌであり、盗聴を日課とする元判事はその元判事その人である。こういう性格、
こういう境遇、そうした分類、特徴付け、すべて超えて、よく知るその人その
ものを映し出す。
だから、言葉を重ねて何か説明するより、無力にも「観てみてよ」としか、こ
の作品を伝える術がない。

後半からは安手なドラマでやったなら、どこか鼻白んでしまうような、健全な
倫理観が、説得力をもって立ち上がる。人を信じない孤独な老人をずっと観て
いたのに、最終的にはこの世界を信じてみる勇気を与えられる。
「青」は自由、「白」は平等、「赤」は博愛というのが、このシリーズのテー
マだそうだ。

■COLUMN
作品のメインカラー「赤」が、ところどころに配置される映像が美しい。
街のライト、信号、バッグ、車、要所要所に、「赤色」のアクセントが効いて
いる。どこもかしこも、どのショットにも赤という訳ではない。しかし、メイ
ンカラーが赤であることを、折りに触れて思い出させてくれる、抜群のバラン
スでの赤の入れ方が、本当にうまい。
って相手は巨匠なんだから、私が褒めても仕方ないから、言い換えれば、そう
いう赤を見せてくれることがうれしい。

考えてみると、応援しているサッカーチームのカラーは赤。今使っているメガ
ネのフレームは赤。私は赤が好きなのかもしれない。

強烈に、さりげなく、はっと目を引く具合に、こっそり仕込まれたように、地
味な色合いをヴィヴィッドに輝かせるように、時に唐突に、自然に、画に差し
込まれた赤を見たくて、ディスクを進めたり、戻したり、気に入りの映像を探
してみた。そうすると、前には気づかなかったささやかな赤や、堂々としてい
てかえって気づけなかった赤に、また出会えたりもする。

1時間半あまりの上映時間は、そんなに早くそこで終わってしまうのがとても
惜しくて、この世界の続きをもう体験できないのはとてもさみしくて、大きな
大きな赤をバックにヴァランティーヌの横顔が訴えかける、最後のショットは、
なごりの赤だった。

家の中、街の中、テレビの中、明日から赤という色の見方も変わりそうな気が
している。


■DVD INFORMATION
トリコロール/赤の愛
価格:(定価:¥ 3,990)中古品が出品されていますが定価より高くなってます。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000BKJJ9W/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

トリコロール~赤の愛 →VHSです。中古が安く出品されているようです。
価格:(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000064Z5K/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

キェシロフスキ・コレクションII 「トリコロール」セット
価格:(定価:¥ 14,700)これも、コレクター価格となっちゃってます。
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000AKI6U/ref=nosim/?tag=oushueiga-22


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編集・発行:あんどうちよ

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