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欧 州 映 画 紀 行
                 No.197   08.12.31配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 1対1の対峙がさまざまに 描いても描かれても 描き描かれなくても ★

作品はこちら
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タイトル:『美しき諍い女』
製作:フランス・スイス/1991年
原題:La belle noiseuse 英語題:不明(仏語題をそのまま使う模様)

監督・共同脚本:ジャック・リヴェット(Jacques Rivette)
出演:ミシェル・ピッコリ、ジェーン・バーキン、エマニュエル・ベアール、
   マリアンヌ・ドニクール
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■STORY&COMMENT
大画家フレンホーフェルの家に招かれた若き画家ニコラと恋人のマリアンヌ。
フレンホーフェルは、マリアンヌに会って、10年前に断念した大作「美しき諍
い女」を、彼女をモデルにまた再開しようと考える。
夫の仕事の再会を喜びながらも、元々モデルをつとめていて胸中複雑な妻のリ
ズ、恋人にモデルをさせることにしたのに、画家との関係を疑って苦しむニコ
ラ、そして、嫌がって始めたものの、描かれることの魅力から離れられなくなっ
ていくマリアンヌ。
それぞれの思いを抱えて、大作の製作は再開される。

どこのレビューを見ても、「4時間が長くない」ことに触れられる。私はCS放
送のシネフィルイマジカで観たのだけれど、その作品紹介でも、4時間の長さ
を感じさせないと言っていた。
とは言っても、冷静に考えて、4時間弱、236分は長いよ。どれくらい長いかと
言ったら、1分に1回撞く除夜の鐘なら煩悩の数は236回。煩悩が一周回って戻っ
てきそうだ。あ、でも、ヴァチカンも新時代に合わせて、新七つの大罪を発表
したらしいし、除夜の鐘も、社会の動きに合わせて256回とか、512回とかにす
るといいかもねえ。
あら失礼。話がそれた。

この作品は特に長いけれど、ジャック・リヴェットの作品はいつだって長い。
観るのに相当の覚悟がいって、おうちでDVDファンの私も、この人の作品は、映
画館に入っちゃわないと絶対に観られないと思っている。長い作品を制覇する
方法は、強制的に自分を閉じこめちゃうことだ。
そうそう、友だちに借りたゴダールの映画史なんて、いまだ1巻目しか観てな
いもの。Mさんごめんよ〜。
お、失礼。またもや話がそれた。年末スペシャル(?)でちょっとおかしい。
話を戻すと、普通なら映画館でずっぷり座席に身を沈めなくっちゃ難しそうな
環境が、この年末年始にはやってくる。4時間くらいぶっ続けでDVDを眺めてい
ても大丈夫そうな、この可処分時間、この空気、周囲の寛容。

その空気に誘われてかもしれないけれど、私もこの4時間弱、そんなに長いと
感じなかった。
ああ、やっとのこと話が始まる。今回のメルマガのテーマは、何故に私は『美
しき諍い女』を長いと感じなかったか、である。

大半がアトリエでの画家とモデルの対峙であるこの映画が、長く単調にならな
い理由の一つは、1対1のあらゆる関係が引きつけ続けるから。
反発、動揺、嫌悪、興味、モデルのマリアンヌは、くるくると感情を変え、2
人の間の緊張感は、つねに違った趣で観客を画面に留め置く、描く/描かれる
という関係は同じでも、求められるままにポーズをとっていたマリアンヌが、
いつしか萎えかけた画家をむしろ支配する、スリリングな展開もいい。
マリアンヌがそこから抜けられなくなってように、観客もそこにいて、完成し
た絵を観なけりゃならないと、どうやったって逃れられなくなる。

気詰まりな薄暗いアトリエの物語から視線がそれて、庭のテーブルや、光の入
り込むテラスにシーンが移ることもある。見た目の明るさにほっとできるかと
思うけれど、ここにも必ず誰かと誰かの1対1の関係の物語が存在する。ニコ
ラとリズ、リズと使用人の娘、リズと画商、ニコラとその妹、などなど。穏や
かなものもあれど、多くは、何ならそのままその物語を推し進めたっていいん
じゃないかと思うような、濃厚で重い1対1の関係だ。一見それているかの話
にも、いろんな1対1の見本市、目が離せない。

そして、アトリエでの作業は、ふだん「完成形」しか観ないものの、製作途中
を垣間見る、野次馬根性、のぞき趣味も刺激する。
筆の音、木炭の音、キャンバスをこする音だけで画が見えないときには、「ど
んな絵? どんな絵?」と「もっと見たい」を刺激され、画家しか映らないと
きには、「マリアンヌはどんなポーズを?」と、やっぱり「もっと見たい」。

モデルは画家と冒険に出て、己の中の中まで露わにされると、ここでは言われ
る。そこに夢中になる、観客も、ほんのちょっぴり、露わにされる危険で甘い
感覚に襲われる。そこから逃げられない4時間。むしろ、もっと長くたってよ
かったと、思う。

■COLUMN
この作品、昔観たはずだけれど、そのときに観たのはひょっとしたら短時間バー
ジョンだったかもしれない。あんまり記憶が定かではないのだけれど、いちば
ん、「あれ?」と思ったのはマリアンヌ役のエマニュエル・ベアール。
自分の体に相当の自信があるんだろな、というのは昔から変わらないこと。た
だ、久々に、若い頃(といっても、もうこの時点で27歳くらい)のエマニュエ
ル・ベアールを見たら「若さ」にあふれてるんだろう、と思って身構えて観た
ら、何だか、そうでもない。

素朴さという意味では、「昔の姿だね」と言えなくもない。けれど、今の方が
むしろ「ベビーフェイス」になってないかな。大きくてたれた目、どうしても
目を引くアヒル口。メイクなどを含めた流行のせいもあるのかもしれない。
でも、彼女の顔は、ただ美しいというより特徴的な個性的な顔(だと私は思う)
なので、流行の顔というのも今ひとつピンとこない。

ミッキーマウスは、生まれた頃の姿から、目が大きく丸みのある顔に「進化」
して社会に適応した(漫画やアニメの主人公は往々にしてこういう進化をする)
という説があるらしいけれど、エマニュエル・ベアールにも、この「人に好か
れるため」の進化が起きたように思う。
91年の本作のベアールは、なんだか普通だけれど、現在の彼女は、ずっと人の
心に印象づける、あえていえばアニメチックな顔、表情をしてる。機会があっ
たら、見比べてみてくださいな。


■INFORMATION
★DVD
美しき諍い女 無修正版 [DVD]
価格:¥ 3,416(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00006S25S/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★2009年の予定
1月、少し不定期になるかもしれません。
予定はただいま考え中です。

☆☆2008年1年間、
「欧州映画紀行」におつきあいいただき、
ありがとうございました!!☆☆
2009年もどうぞよろしくお願いいたします。


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お便り待ってます!

編集・発行:あんどうちよ

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