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欧 州 映 画 紀 行
                 No.198   09.01.10配信
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2009年最初の配信です。今年もどうぞよろしくお願いします。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 「人生」以前の、あの恋 ★

作品はこちら
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タイトル:『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』
製作:スウェーデン/1970年
原題:En Kärlekshistoria 英語題:A Swedish Love Story

監督・脚本:ロイ・アンダーソン(Roy Andersson)
出演:ロルフ・ソールマン、アン=ソフィ・シーリン
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■STORY&COMMENT
療養施設に祖父の見舞いに行ったペールは、同じく家族の見舞いに来た少女ア
ニカに目を奪われる。アニカもペールを気にしていたようだが、言葉を交わす
ことはなかった。後日、街で再会した二人。ぎこちなく、せつなく、甘くて優
しい恋がはじまる。

『愛おしき隣人』という映画が公開された記念に、同監督の「衝撃の長編デビュー
作」デジタルリマスター、ノーカットでDVD発売された。その『愛おしき隣人』
も観ていないし、カルト的人気を誇るらしい『散歩する惑星』も知らない。監
督の作風はよく知らず、少年少女の淡い恋物語というふれこみだけで観てみた。

ここのところ、ラブストーリーらしいラブストーリーは取り上げてなかったし、
久しぶりに恋を満喫するぞ。生活の心配も、将来の心配も、もっといえば、明
日も昨日もなく、今その目の前の恋愛だけに埋没できる、若い日の恋。いやー、
せつなくなるぞ、と身構えたら、ちょっと違ってた。

ささいなことで「もう会わない」とか「もう嫌われた」とか、そもそも話しか
けることすらできなくてなかなか「はじまれない」とか。
若い日特有の揺れや、慣れてないが故のかわいいぎこちなさ、不安。恋一色に
なる日常。
若い日を思い出してせつなくなるような感覚は確かに味わえる。なつかしいよ
うな、うらやましいような。
私が肩すかしをくらったように思ったのは、若い日のしめつけられるような恋
が描かれていないからではなく、それが確かに描かれているのに、そこにどっ
ぷり感情移入して浸れないからだ。

この作品には、ペールとアニカの恋愛以外に、二人の家族の様子を語ることに
かなりの時間がさかれている。人生をすねたり、絶望して、ケンカの絶えない
アニカの両親、結婚できなかったことにコンプレックスを抱いた叔母、孤独な
ものの居場所はないからと、療養所から出たがらないペールの祖父。うまくい
かない人生を引きずった大人たちが幾人も、幾度も現れる。
それは特別な大人ではなく、どこにでもいる人生が大変な大人たちだ。

それらを背景に、幼い恋愛を眺めれば、こんなに一途に相手を求めても、やが
てはここに取り込まれる、もしくは、この大人たちもかつては若いカップルだっ
たんだ、なんて「その後」や、「昔」を連想してしまう。時の流れを悲しく思っ
てしまうのだ。

幼い二人の「人生」はまだはじまっていない。折り合いをつけて、折り合いを
つけられなくて嘆いて、みじめさを泣き笑い、呪い、日々をやり過ごす「人生」
は、まだはじまっていない。

ひょっとしたら、同じく「人生」以前にいる若い人たちがこの映画を観たら、
しょぼくれた大人の世界はただの風景にしか映らず、生き生きと愛し合い、笑
い合い、不安に涙する少年少女の姿だけにどっぷりと浸れるのかもしれない。

「人生」に足を踏み入れて、早……、はて、私はいつからあの恋人たちのよう
には振る舞えなくなってしまったのか。もう何年になるのやら。若いって、い
いことだろうか。怖いことだろうか。それともそれは、単に時の流れでしかな
いのか。
幼い二人の恋よりも、大人の「人生」の嘆きの方がリアルに感じてしまう私は
うろうろとそんなことを考えた。


■COLUMN
「こういう映画かなー」と思って観たら何だか違った、私はそんなことをよく
メルマガに書いている気がする。

あまり期待していなかったけれど、観たらよかったよー、とか、楽しみにして
たのにガッカリ! とか、そういう映画へのコメントはよく聞くけれど、「こ
ういう思いになるこういう映画だと思ってたら違っていた」て、具体的な思い
違いを言う人はあまり見かけないから、ひょっとしたら、私が特殊なのだろう
か。それとも、皆それなりに、映画に勝手にイメージを抱いて観ることはある
のだろうか。

たとえば、あんな人だろうか、いやきっとこんな人。会う前にすーっかり想像
をふくらませてイメージを作り上げて、やってきた見合い相手がイメージと違
う、と言われても、相手は困るに違いない。お見合いしたことないからよくわ
からないけれど。ネットで知り合って気が合った異性に実際に会うときなんか
もそう? いや、これもやったことないからわからない。

まあ、とにかく、勝手な想像で勝手に思いこまれても、相手は困るだろう。私
が相手の立場でもそう思う。
それと同じで、映画だって、勝手にイメージを持って、そのイメージにはまる
つもりで観られても困るだろうね。

でも、同時に私はこうも思う。
その勝手だったかもしれないイメージを持ってたからこそ、生まれる視点だっ
てあるんだよね。
今回、大人の「人生」と、そこにまだ絡め取られてない若い二人を見たのも、
「さあて少年少女のしめつけられるような恋愛に浸かるぞ」、と準備した私だ
からこそ、だと思う。
そう見て、そしてそれをここに書きつけることが、ホントにハッピーであるか
どうかは別の問題かもしれないが。

先入観は、あってもなくても、何かに影響する。どっちを選ぶかは、好みかな、
性格かな。


■INFORMATION
★おことわり
若い日の一途な恋愛が「人生」以前のもの、という発想は、
橋本治『失楽園の向こう側』(小学館文庫)からヒントを得ています。
ただし、この本の中では、「若い日の恋愛」と「人生」を対比させているわけ
ではなく、世代に関係なく「人生をまだ共有していない、愛し合う二人」とい
う状態を語っています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4094080740/ref=nosim/?tag=oushueiga-22
★DVD
スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー 価格:¥ 3,960(定価:¥ 4,935)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001EO99OO/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

★今回のメルマガ、気に入ったらクリックお願いします。
http://clap.mag2.com/caemaeboup?S198

★コメントくださった方にお返事
愛国者 さま

くだらない無駄話を読ませてしまってすみません!
なるべく作品のことを直接語るようには心がけますが、
作品から連想したことや、作品と私との関わりなど、
いろいろと考えを巡らしたことを書くのが、
いわば、このメルマガのコンセプトのようにもなっていますので、
きっと、無駄話は、今後もやめないと思います。
ご了解いただければ、うれしく存じます。

★1月の配信予定
週1ペースを守るつもりですが、
少し不定期になるかもしれません。
少し長い正月ボケだと思っていただければ(笑)。

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お便り待ってます!

編集・発行:あんどうちよ

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一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
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