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欧 州 映 画 紀 行
                 No.204   09.04.23配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 心に秘めた挑戦を、きっとあと押ししてくれる ★

作品はこちら
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タイトル:『マルタのやさしい刺繍』
製作:スイス/2006年
原題:Die Herbstzeitlosen 英語題:Late Bloomers

監督・原案:ベティナ・オベルリ(Bettina Oberli)
出演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナー、
   アンネマリー・デューリンガー、モニカ・グブザー、
   ハンスペーター・ミュラー=ドロサート
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■STORY&COMMENT
「おばあさん」たちの人生の再出発を描く心あたたまるコメディ。
夫を亡くしてからというものマルタはふさぎこむ一方。友人たちも心配するが、
本人は、一向に元気を出さない。しかし、ふとしたきっかけから、若い頃やっ
ていた裁縫と刺繍を再開しようと思いつく。彼女が昔作っていて、店を出すこ
とも夢見ていたそれは「ランジェリー」。
元気を出せと励ましていた友人も、息子も、「いい年してそんな破廉恥な」と
「ランジェリーショップ」には大反対で……。

「再出発」の物語は、観た後の気分がいい。
大々的な人生のリセットとまではいかなくても、何か新しいことをはじめたい
とか、生活をどこか変えたいとか、昔の趣味を再開しようとか、誰でも何かし
ら「自分の変革」を考えているもので、「再出発」に成功する物語は、皆それ
ぞれ自分のペースで感情移入しやすくて共感もしやすいのだろう。

さらに、この作品は、80歳の女性が主人公ということあって、「もう30過ぎた
し」「40超えちゃってるからどうにも」なーんて、甘っちょろい諦めを漂わせ
てる人たちを、しっかり激励してくれるところも爽快だ。

そして、この作品がするっと心に入ってくる要因のもう一つは、マルタの再出
発が、周りの人にも影響を及ぼすこと。1人の友人を除いて、誰もが反対する
マルタのランジェリーショップだが、マルタの姿を見て、周りの友人はしだい
に理解を示し、その理解はその人自身の変革へとつながっていくことだ。

フリーダは老人ホームでの生活に慣れず、ホーム内に友人もなく問題入居者扱
いされていたが、マルタのランジェリーショップの手伝いを考えるうちに、自
分に好意を持ってくれている男性の存在に気づく。
夫の介護に明け暮れ息子に邪険にされるハンニは、運転免許の取得に挑戦し自
立を目指す。

マルタは、映画の最初には完全にすねた老人だったけれど、昔の仕事の楽しさ
を思い出してからはとんとん拍子に、自分自身の変革はむしろ簡単だった。
難しいのは、その変革を他人にも理解してもらうことで、マルタの変化が少し
ずつ連鎖的に周りの人の幸福や変化を呼ぶさまが、すがすがしい。

誤解を恐れずにあえてサブカルな言い方で説明すれば。
友人や神父である保守的な息子などの「敵キャラ」が少しずつ味方になっていっ
て、最後に、意地悪と邪魔ばかりする地元の権力者が、ボスキャラとして残るっ
ていう構造が、物語に容易に入り込める要素になっている。

作ってみようと思いつつそのままになってたあの料理、挑戦しようかな。
サボり続けてたblogの更新、久々にしてみようかな。
そんなささやかな挑戦でも、人間、誰かにあと押しされたらうれしいもの。
ささやかなのも、大胆なのも、あなたの挑戦をきっと応援してくれる、あたた
かな一作だ。


■COLUMN
スイスのエメンタール地方の景色が美しい。
春の明るい陽気はやってきたけれど、目にするのは東京の雑踏ばかりの私にとっ
て、草木の青々とした映像は、深呼吸したい気分にさせてくれる。

ただ、こういうのんびりした佇まいの田舎にこそ、偏見や変化を阻む狭量な考
え方が巣くってるんだなあ、とコワくも感じる。

風俗店を経営するとか、そこで働くっていうなら、まあ、驚きや戸惑いはわか
るけれど、オリジナルのランジェリーを作るとか、その店を開くって、私が慣
れ親しんだ感覚だと「破廉恥」ていうようなことでもない。
(その辺り、以前に取り上げた『やわらかい手』の、孫の治療代を稼ぐために
風俗店のバイトを始めるマギーなら、周りのパニックがよく理解できる)
舞台として、同じメンバーが長い間同じように暮らし続けてきた田舎の村じゃ
ないと成立しない物語だ。

夫の頼みでランジェリーや洋服の仕立ての仕事を辞めたマルタ、夫が許してく
れなかったから運転免許の取得を諦めていたハイニ。
「年齢に関係なく新しいことはできる」というテーマは、この小さな村の狭い
ところで抑圧されて生きてきた女たちの長年の悔しさに立脚している。

地方に都会の風習や文化が入り込んで、同化させられる形で「変わる」ことが
あり、それが地方色がなくなると批判のもとにもなる。
田舎の町が変わるとき、こうやって中から、一人ひとりの心が変わる形なら、
息の長い、その土地に根付いた「変化」になるかなあ。

■INFORMATION
★DVD
マルタのやさしい刺繍
価格:¥ 2,925(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001QYK8LK/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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★コメントくださった方へ、お返事

・keicoco さま
配信を気に入ってくださって、本当にありがとうございます。
そういうお言葉、とっても励みになるのです。それで十分ですもの、DVDのこと
までお気になさらずに!
ドイツによくご訪問とのこと、うらやましい! 今度どこかに行かれたら、ぜ
ひ感想などお知らせくださいね。

・Bruno さま
>原題名の劇場の座席(開幕直前に今の席よりもモット見えやすい席に
>移る人がいるこれは人間の性なのです)と言う題名にしびれました

なるほど。もっと、もっと、と、どこまでも求めて「不満足」になる人間。
監督の興味深い人間観察ですね。
マルセイユを、楽しんでいらしてください!!

・tentpapa さま
楽しみにしているとのお言葉、ありがとうございます。
もっと楽しみにしていただけるように、がんばっていきます。

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