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欧 州 映 画 紀 行
                 No.205   09.05.03配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ みんなの幸いはどこにある ★

作品はこちら
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タイトル:『この自由な世界で』
製作:イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン/2007年
原題:It's a Free World... 

監督:ケン・ローチ(Ken Loach)
出演:カーストン・ウェアリング、ジュリエット・エリス、
   レズワフ・ジュリック、ジョー・シフリート、コリン・コフリン
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■STORY&COMMENT
移民の職業斡旋会社に勤めていたアンジーは、理不尽な理由で解雇されてしま
う。雇われる立場に限界を感じ、前の会社への怒りも手伝って、表も裏も知り
尽くした職業斡旋ビジネスをはじめることにする。
自分がはい上がるため、シングルマザーとして息子を守るため。移民労働者た
ちに日雇い仕事を斡旋する仕事は、虐げられた者が、より弱い立場の人を虐げ
る構図を見せはじめ……

連休いかがお過ごしでしょうか。せっかくゴールデンで、ウィークなのに、おっ
と、ウィークは関係なかった、ずいぶん重たい作品を選んでしまいました。
でも、ま、2008年夏に日本公開されたこの作品は、今の方が、日本にいる人た
ちに響くかもしれず。こんな長い休みのときに、ちょっと世の中考えさせられ
るのも、悪くはないでしょう。

急に思い立ち、資金もないところから起ち上げた商売だが、アンジーは持ち前
の行動力と交渉力で、つぎつぎと顧客を増やしていく。
幸せになりたい、まともな暮らしをしたい、その思いを仕事への情熱にかえた
彼女の働きぶりは、成功した女性起業家のドキュメンタリーにも出てきそうだ。

アンジーの情熱は、国から逃げてきて、しかし亡命を認められない不法滞在者
を助けて仕事を斡旋する、という危ない方向へ向かってしまう。はじめは人助
けのつもりだった。
法律に触れることをするのは危険だ。しかし、本当に危険なのは、「助けよう」
という思いがだんだんずれて、仕事を成功させるためなら、弱い人たちの思い
も立場も踏みつけにしても仕方ない、不正もやむなし、という方向へ行くこと
だ。
「自由」の名の下に、自分の力でつかみとったならば、許されると信じてしま
うことだ。つかみとるも踏みつけられるも、すべては「自己責任」とでもいわ
んばかりに。

労働運動の応援にも熱心なケン・ローチ監督のメッセージはおそらく、アンジー
をたしなめる彼女の父の言葉に凝縮されている。そのメッセージの伝え方がい
ささか直接すぎるかな、もう少し「ほのめかす」感じがあってもいいんじゃな
いかとも、思うけれど、アンジーの行動の是非をゆっくり考えるには、父娘の
話し合いのシーンは必見だろう。
この映画で何かの答えが出ることはない。けれど、世の中の問題を考えてみた
いときに、ぜひ。

■COLUMN
「癒し」や「癒される」という言葉が流行り、定着して、もう長い。始めの頃
は(10年、もう少し前かな)、確か「ヒーリング」が爆発的に流行って、その
後「癒し」に落ち着いたような記憶がある。

「ヒーリング」なり「癒し」なりが流行るってことは、それだけみんな傷つい
ていて、マイナスの状態を「癒されて」ゼロあるいはプラスにしたいって、
思っているのだろう。
たいていの人が傷ついて「癒し」を求めてるってことは、それだけ、誰かを傷
つけてる人がいるということ。ということは、私もさんざんいろんなところで
人を傷つけてるんだろうか。と、ふと思った。そんなつもりはないのだけれど。

親は自分の子が学校で「いじめられていないか」は心配するけれど、「誰かを
いじめてやしないか」を心配することは少ないという。それを責めようとはまっ
たく思わないが、一般に「いじめ」は一人を大勢がいじめたり、無視したりす
ることが多いから、いじめの被害者よりも加害者の方が人数は多いはず、だか
ら、「誰かをいじめてやしないか」という心配の方が確率としては当たるだろ
う。そういう方向の心配を皆がしたなら、ひょっとしたら何かが変わるかもし
れないとも思う。

それといっしょで、自分がいかに傷ついたか、よりも、自分が人を傷つけてや
しないか、心を配ったなら、何かがスムーズになるかもしれない、と反省する。

だが、人が傷つくときには、必ずしも「傷つける」「傷つけられる」の1対1
で傷つくわけではない。むしろ、そういうはっきりした関係があるのは少数で、
もやもやとした怒りや、もやもやとした疲れや、小さいことの積み重ねで、結
果として「疲れて傷ついた自分」がそこにいる場合が多いだろう。

イライラや怒りが充満するところでは、アブない証券を少ーしずつ金融商品に
混ぜ込んで世の中に分散させているうちに、とてつもないダメージを世界に与
えるように、ちょっとしたイライラを、ちょっとした怒りを、少ーしずつ態度
や言葉に混ぜ込んで、傍らの人にぶつけているうちに、とてつもないダメージ
を周りに与えるということになりかねない。

見知らぬ人を含めたみんなのことを、ちょっと考えて、自分が何かをやらかし
てしまう怖さに、気を配って、みんなが、ハッピーになれたら、いいのにね。
そんな草の根の心配りではどうにもならないところに、進んでしまっているの
かも、しれないけれど。

■INFORMATION
☆DVD
この自由な世界で
価格:¥ 3,043(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001Q2HO28/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

☆コメントをくださった方へお返事
・melk さま
豪華で派手な映画もよいのですが、静かに、普通の人々の普通の生活を、じっ
くり見せてくれる作品が、やっぱり、私も大好きです。
そんな作品をこれからも探していきたいと思っています。
前号の『マルタのやさしい刺繍』ぜひぜひ、DVDでも観てみてくださいね。

・kaede さま
いらっしゃいませ〜。
>どんなふうにしてこういう映画を見つけるのですか?
うーん、レンタル店で眺めて面白そうなものをってこともあるし、blogなどで
の評判や、あと、公開していたときの新聞などでの評が頭に残っていたりもし
ますね。前に観たことのあって気に入った監督のものだと、またその次の作品
も追っかけたり。いろいろです。
リクエストなどもお待ちしてますので、気になる作品があったら、どうぞ教え
てくださいね!
一応、レンタル店で見つけやすいものを選んでいるつもりですが、そうじゃな
かったときは、許してください〜。

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