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欧 州 映 画 紀 行
                 No.206   09.05.14配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 面倒で、悲しくて、苦しくて。でも人と関わるのはやめられない★

作品はこちら
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タイトル:『ぼくの大切なともだち』
製作:フランス/2006年
原題:Mon meilleur ami 英語題:My Best Friend

監督・共同脚本:パトリス・ルコント(Patrice Leconte)
出演:ダニエル・オートゥイユ、ダニー・ブーン、ジュリー・ガイエ
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■STORY&COMMENT
舞台はパリ。美術商のフランソワは、顧客の葬式で参列者が少なかったと嘲笑っ
て話していたら、仲間に「君のときはもっと少ない。友だちがいないのだから
きっとゼロだ」と言われた。
その指摘に憤慨したフランソワは、10日以内に“親友”を連れてくると、賭け
をすることに。
“友だち”だと思う人を訪問してみるが、“友だち”の何たるかをわかってい
ないフランソワは的外れなことばかり。カフェで、いきなり、「皆の勘定を持
とう」と叫べば、誰かが友だちになるに違いない、なんて思うありさまだ。
誰にでも気さくに話しかけるタクシー運転手ブリュノに、「友だちのつくり方」
をレクチャーしてもらうことにする。

ビジネスの仲間が口をそろえて「友だちがいない」と評するフランソワは、自
己中心的で、他人に対する思いやりがすっかり欠如している。
そういうイヤな男が主人公なのだが、この男を「必死に親友をつくろうともが
く」という設定に押し込めると、友だちがつくれないのは「かわいげのある幼
児性」、もがく姿は「コミカル」になって、不快感はまったくない。

「友だちのつくり方」を教えているブリュノは、フランソワを「友だち」とし
て心配したり、世話を焼いたり思いやったりしはじめるのだが、フランソワの
方はさっぱりそのことに気づかない。
「恋のように」というと語弊があるかもしれないが、一対一の人間関係には、
どうしたって「恋のように」相手の反応に敏感になったり、他方の無関心に失
望したり、報われない思いをもてあましたり、そんなことが起こる。

賭けだから必死に“友だち”をつくっている、いつまでも気づかないフランソ
ワと、ふつうに誠実に接するブリュノ、二人に本当に友情は生まれるのか、は
観てのお楽しみ。
ラストまで観ると、ちょっと悲しくて、ちょっと温まって、人間関係って面倒
でやっぱり面倒で、でも結局、そこがいいんだよね、と、うすうす気づきなが
らも面と向かっては言葉にできない“真理”を、誰かに伝えたくなる。

■COLUMN
“友だち”って何、というような話になったとき、ブリュノは「何か悩みがあ
るとき、午前3時に電話をできる相手は?」とフランソワに尋ねる。もちろん
そんな相手はいないフランソワだが、「悩みはない」と切って捨てる。ブリュ
ノは、「ああ、じゃあそんな相手がないことが悩みだ」とちゃかし半分に話を
しめくくる。
話が進むにつれてわかってくるのは、ブリュノにだってそんな相手はいないっ
てことだ。

“友だち”の何たるかは人並みにわかっているし、フランソワのような態度が
友だちをつくらないことも知っているブリュノだが、友だちがそんなにいない
ことではフランソワと同じ。フランソワと違うのは、そんな自分をはじめから
わかっていることで、その分、ブリュノはフランソワよりもずっと孤独を感じ
ている。

そんなブリュノは、多くの観客にとって自分を投影できるキャラクターだろう。
「午前3時の電話」という具体例にこだわるわけではないが、実際、それに恩
に着ず恩に着せずできる関係(恋人相手ではなく)を持てる人は少ないはずだ。
若い頃にはそれができても、互いに仕事を持ち、家庭を持ち、するうちに、そ
んなことはできなくなっていく。

仕事関係での“知り合い”じゃなく、学生時代の“知り合い”じゃなく、
“友だち”、そして“親友”と言える人がいるのか。
温かいヒューマンコメディの裏では、厳しい問いを自分につきつけることにも
なる。性別で分けたくはないけれど、特に働き盛りの男性にとっては、痛い問
いにもなるんじゃないかな。

上から評するような態度じゃあ「ずるい」かもしれないから、じゃあ、私はど
うなのかってことを一言。
もともと知り合いの人数も少ない上に、マメさがなくて、筋金入りの出不精で
つき合いの悪い私は、友だちはとっても少ない。葬儀に出席したとき、「私が
死んでも、こんなに人も弔電も集まらないよ」とかなり真剣に焦ったこともあ
る。午前3時には、電話もメールも、誰にもきっとできない。常識的な時間で
も、突然用事もなく、電話やメールしたら、マズいんじゃないかと、悩むに違
いない。

だから、フランソワの言動を微笑ましく思う私に、「それを笑ってられるのか
い」と内なる声が聞こえて痛かったのは事実だ。
けれど、別の方角からの内なる声は「きっと、何言ってるの、私がいるでしょ、
俺がいるだろ、といっしょに笑ってくれる輩、数人がいるじゃないか」と言う。
ああ、私の勘違いじゃなければいいのだけれど。

■INFORMATION
★DVD
ぼくの大切なともだち (完全受注5,000本限定生産)
価格:¥ 4,053(定価:¥ 4,725)
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編集・発行:あんどうちよ

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