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欧 州 映 画 紀 行
                 No.207   09.05.21.配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 大人になったから、わかる。あのときの子どもの気持ち ★

作品はこちら
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タイトル:『ベティの小さな秘密』
製作:フランス/2006年
原題:Je m'appelle Elisabeth 英語題:Call Me Elisabeth

監督・共同脚本:ジャン=ピエール・アメリス(Jean-Pierre Améris)
出演:アルバ=ガイア・クラゲード・ベルージ、ステファーヌ・フレス、
   ヨランド・モロー、マリア・デ・メディロス、バンジャマン・ラモン
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■STORY&COMMENT
ちょっと昔のフランスの片田舎。10歳のベティは、大好きな姉が寄宿舎に入っ
てしまい、両親は不仲でけんかが絶えず、孤独になっていた。
ある日、父が院長を務める精神病院から患者が逃げ出した。その患者・イヴォ
ンに出会ったベティは、こっそり納屋にかくまうことにする。寂しい思いをし
ていたベティ。イヴォンに淡い恋心を抱くようになって……。

ベティの身にはいろんなことが起こって、とっても大きな冒険をしたように感
じる。けれど、ここで流れている時間は、姉が寄宿舎へと発ち、「週末には帰っ
てくるから」と言って帰ってくるまでの1週間弱のこと。
そんな短い間にいろんなことがはじまって、終わって、成長する、子どものと
きならではの時間の経過だと思う。
吸い込まれそうで、何かが出てきそうで怖かった暗闇や、何となく異世界に引
き込まれそうな扉、思うようにまわりの人がかまってくれない孤独、両親のケ
ンカの声が絶望的に不安に落とし込んだこと。子どものときに味わったなつか
しくて、ちょっと痛い感覚があふれている。

子どもが主人公の子ども映画のように、(少なくともパッケージはそんな雰囲
気に)なっているけれど、子どもが観てもこの感覚はきっと伝わらないだろう。
この作品は、もう子どもじゃなくなった大人こそがわかる、子どもならではの
気持ちを、ていねいに映し出す。

こっそり隠れながらかくまってあげるイヴォンや、新しい恋人のところへ行こ
うとする母、飼いたいと頼んでいるのに、父が話を聞いてくれないから、安楽
死処分になりそうな犬、などなど。どうやって、どこにこの物語は帰着するん
だろうと、心配になりながら経過を見守っていた私だったが、最終的にはいろ
んなあれこれが、ほのめかしながらも観客の想像にゆだねてあって、その辺り
も、お子ちゃまに甘くない大人の映画だね、と気に入った。

木々が光にきらめく、晩夏の田舎の景色も美しい。そんな画面のきれいさも含
めて、大人だからこそ楽しめる子どもの映画、いい陽気が外へと誘い出すよう
な休日に、大人はむしろ家でテレビに向かって、ぜひ。

■COLUMN
「もう子どもは終わった」と新しい生活に胸をふくらませて寄宿舎へと行って
しまう姉を、ベティは寂しく見送るしかできない。姉のアニエスは、ちょうど
思春期、「もう子どもじゃない」と威張ってみせることのできる年頃で、ベティ
自身がそれを気づいているかどうかはわからないけれど、ベティをずいぶん子
ども扱いしている。
アニエスは「もう子どもじゃないもん」と強がれる年で、ベティは「もう子ど
もじゃないもん」と言えることに憧れる子どもだ。

それを象徴的に表しているのが、「ベティ」という呼び名。だれもかれも(つ
まり、両親、姉、学校の友だち、みんなが)ベティと呼ぶけれど、ベティ自身
は、「エリザベート」と名前で呼んでほしい。そして、それが一人前と認めら
れることの証でもある。
だから「ベティ」と名乗りながらも、イヴォンには「エリザベート」と呼んで
ほしいと言う。

原題の「Je m'appelle Elisabeth」は、直訳すると「私(の名前)はエリザベー
ト」という意味だけれど、セリフの文脈としては、英語題の「エリザベートと
呼んで」、が近い。
1週間弱という短い期間に、悲しいことや勇気を振り絞ることを体験するベティ。
そのしめくくりとして「エリザベートと呼んで」という彼女の気持ちを考える
と、『ベティの小さな秘密』なんて脳天気な邦題をつけられてしまったことが
なんだか気の毒になってしまった。

「私はエリザベート」じゃあ、どこかの王女か皇后みたいで重い感じがしてし
まう、日本で公開するなら、『ベティの小さな秘密』で間違いないとは思う。
(タイトルは大事なキャッチコピーだから)

でも、この作品に関しては、タイトルにするほどにベティ=エリザベートにとっ
て大切な呼び名の意味がすぽっと抜け落ちかねないから、うーん、もったいな、
と思う。「翻訳する」って難しいなあ。

■INFORMATION
★DVD
ベティの小さな秘密
価格:¥ 3,161(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001P2QRK4/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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kaede さま
メルマガご登録以来、実際に紹介作品を観てくださってありがとうございます。
宅配レンタル、私は未体験ですが、全国どこでも同じ在庫で、メジャー作品も
マイナー作品もあって便利そうですね。
今回の作品は、ご興味と少し違うかもしれませんが、いろいろな作品を取り上
げていきますので、また、おつき合い、どうぞよろしくお願いします!

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編集・発行:あんどうちよ

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