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欧 州 映 画 紀 行
                 No.208   09.06.05配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 生身の人間相手に夢を見られるのなら、悲劇ってだけじゃない ★

作品はこちら
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タイトル:『家族の肖像』
製作:イタリア・フランス/1978年
原題:Gruppo di famiglia in un interno  英語題:Conversation Piece

監督:ルキノ・ヴィスコンティ(Luchino Visconti)
出演:バート・ランカスター、ヘルムート・バーガー、ドミニク・サンダ、
   クラウディア・カルディナーレ、シルヴァーナ・マンガーノ
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■STORY&COMMENT
ローマの大きなアパルトマンに家政婦を雇って、静かに自分の世界に閉じこもっ
て暮らす老教授。そんな教授のもとに、2階を借りたいという母娘が現れる。
断る教授を強引に説き伏せ、この母ビアンカと娘リエッタは2階に住むことに
してしまう。
リエッタの婚約者、ビアンカの愛人コンラッド、価値観の違う住人と隣人(上
下だが)となり、戸惑い辟易する教授だが、コンラッドが、絵画を理解し、モー
ツァルトを愛し、芸術について造詣が深いことを知って、彼を見る目が変わっ
てくる。

ひっそり暮らしている老教授のところに、騒がしい間借り人がやってきて、教
授の生活が変わっていく。筋立てはシンプルなのだけれど、実はいくつも要素
があって、(たとえば、「世代のギャップ」「貴族の暮らしと考え方」「親子」
「家族」「ヨーロッパと新世界」などなど)どこを中心に観るのか、どこを中
心に語るのか、という選択はきっと無数にあるだろう。
きっとヴィスコンティが好きな人というのは、その辺が楽しくてたまらないん
じゃないかな。

言い訳じゃないけれど、私は生半可な映画ファンなので、そんなに広がったこ
とを言えるわけじゃない。いちばんシンプルなところ、老教授の「家族」への
憧れの話にとどめる。

貴族階級でインテリ、家族はなく、好きなものに囲まれて、静かに暮らしてい
る老教授(名前は最後まで明かされない)は、自分のテリトリーを守り、自分
の人生に満足しているように見える。
しかし、カンバセーションピースと呼ばれる家族の肖像画を好んで集め、身の
回りに飾っているところからして、こっそり「家族」に憧れているのだろう。

だから、はじめは迷惑に思っていた騒がしい間借り人たちに、そのうちに「家
族」の情で接しようとする。コンラッドに対しては、「自分の知識を託せる息
子」くらいの気持ちを抱く。
教授の頭には、別れた妻や母の思い出がフラッシュバックし、闖入者たちの存
在は、確実に教授の生活にも考え方にも影響を与えていく。
老人は、実生活で実現できなかった「家族を持つ」を今ここで現実のものにで
きるかと、うっかり思ってしまったのだ。ことあるごとに、教授は心ざわめく。

しかしそうして、家族なんだと思って腹をくくったころ、この「家族」は崩壊
の方向へ急激に向かっていく。世捨て人が、もう一度人を信じて関わっていこ
うとしたときのこと。所詮は教授の幻想に過ぎなかったのか、家族として理解
することは無理だったのか。

物語は悲劇なのだけれど、私には悲劇だけじゃない気がしてならない。老年に
さしかかったとき、理解不足だろうが幻想だろうが、生身の人間相手に家族を
夢見たことは、よかったんじゃないだろうか。ここで言うような「古き良き理
想の家族」が、物心ついた頃にはある意味すでに崩壊していた世代だから、そ
う思うのかもしれないけれど。
家族と感じたり、息子と呼びたい人ができるのは、晩年のすてきなできごと。
私にはそう思える。

■COLUMN
この『家族の肖像』は、このメルマガで取り上げるものとしては、例外的だ。
新しめの作品を取り上げることが多いのに、この作品はちとクラシックという
こともあるが、もう一つ、私には、現地語で話している作品を取り上げたい、
という思い・優先順位がある。

『家族の肖像』は、舞台はローマという設定だが、登場人物は皆英語で話す。
本国イタリアで公開したときは、イタリア語の吹き替えだったらしい。

外国の映画を観るときは、その国の言葉も音で楽しみたいから、東欧の話なの
に英語だったりすると、がっかりしてしまう。
といっても、外国語を聞いてもわからないから、ひょっとすると、田舎の話な
のに皆標準語で話しているとか、リアリティのないことはいっぱいあるのかも
しれない。だから、「現地語第一」なんて考えていても怪しいもんだが、まあ、
とにかく、そういう映画の方が好きなのだ。
(もちろん、全編英語でも面白い作品はたくさんあるし、今回の『家族の肖像』
もそのひとつである)

グローバル化が進むと、いろんな国の俳優が集まって映画を作ることは今後もっ
と多くなるだろう(『家族の肖像』も、そういう形で共通語の英語が選択され
ているのだと思う)。

どっちみち、字幕や吹き替えで、それぞれの国の言葉で理解するんだから、世
界中から最高峰の俳優を集めて、世界の共通語である英語で製作すればいい。
英語なら、翻訳なしに理解できる人の数も多い。
その考え方もわかるけれど、なんだか私はつまらない。
世界には、こんな響きの言葉を話している人たちがいる。そんなことを無意識
に感じることだけでも、価値あることだと、私は思うんだけどなあ。

■INFORMATION
☆DVD
家族の肖像 デジタル・リマスター 無修正完全版
価格:¥ 4,311(定価:¥ 5,040)
http://www.amazon.co.jp/dp/B000CEVWP6/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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