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欧 州 映 画 紀 行
                 No.209   09.06.12配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ ゆったり田園風景 ゆっくり友情 ★

作品はこちら
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タイトル:『画家と庭師とカンパーニュ』
製作:フランス/2007年
原題:Dialogue avec mon jardinier
  英語題:Conversations with My Gardener

監督・共同脚本:ジャン・ベッケル(Jean Becker)
出演:ダニエル・オートゥイユ、ジャン=ピエール・ダルッサン
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■STORY&COMMENT
パリで成功した画家が、生まれ故郷に戻って新しい暮らしをはじめた。庭師の
募集にやってきたのは、偶然にも小学校の同級生。再会を喜び、すぐに意気投
合し、数十年ぶりの友情を築いてゆく。

故郷は早くに飛び出し、パリで芸術家仲間と暮らし、財産も築いた画家は、自
らの浮気癖のせいでただいま妻と離婚調停中。かたや庭師は、ずっと同じ村で
過ごし、中学を出て国鉄職員として働き妻とつつましく暮らしてきて、退職し
た今、念願の庭師となった。

生活感覚や常識の違う者同士、懐かしさで仲よくなっても、やがてその関係に
暗雲がたちこめるのか……、なーんて構えて見ていたのだけれど、そんな展開
には、ちっともならなかった。
ちょっと前に紹介した『ぼくの大切なともだち』で、ダニエル・オートゥイユ
が友情というものを理解しない男を演じていたことにひきずられていたのかも
しれない。それとも、人間の暗い面を見ることばかりに慣れてしまったのか。

もちろん、互いの境遇や環境の違いで会話がすれ違うところはたくさんある。
一方が一方を理解できなくて、言い争いになることもある。たとえば、顧客に
注文された絵を描いていて辟易している<芸術家の苦悩>を理解しない庭師。
たとえば、失業した娘婿のことで悩む庭師に対し、<いまこの時代に労働者階
級が再就職することの難しさ>を理解できない画家。
だけれど、それは、何かが決定的に変わってしまうすれ違いにはならない。フ
ランス人の友人らしく、言いたいことを言ってけんかになっても、それはその
場だけのこととなる。

邦題だと『画家と庭師とカンパーニュ』と、主人公二人と繰り広げられる舞台
が並列した形になっているけれど、原題は「うち(私)の庭師との会話」。二
人の関係というよりも、画家の目線で観て、二人の会話を楽しむのが合ってい
るのだろう。事実、出てくるシーンはすべて画家の行動を追ったもの。画家が
いなくて庭師のいるシーンはなく、田舎でもパリでもいつも画家のいるところ
だけが物語に登場する、画家目線の物語だ。

庭師は、念願だった庭師を退職後のアルバイトにできたことがうれしい、とい
う変化があるが、地に足をつけつつましく家族と暮らす生活は、基本的に変わ
らない。しかし画家は、スノッブなパリの芸術家を庭師に聞いた話を引用して
やりこめ、修復不可能に見えた夫婦の関係も自分が少しずつ他人を気遣うこと
をきっかけにして変わっていく。
人生もすっかり完成したかに見えるときに訪れる、柔らかい変化が心にしっく
りくる作品。

■COLUMN
たまたま睡眠不足の日に観たことも影響し、途中、少し眠くなるところもあっ
た。けれど、それは、退屈なのとは違う。田舎ののんびりした景色と、友情を
復活させた二人の雰囲気がなんともゆったりして、リラックスを呼ぶからだ。

夏を前に、どこか緑のあふれた空気のいいところに行きたいな、と思っている
人は、いい旅行気分を味わえる。
また、自分の故郷が木々ざわめく田園ならば、夏を前に、帰省時期を決めたい
な、なんて気分になる人もいるだろう。

私の育った町は、空気をいっぱいに吸い込みたくなるような田園風景ではない
けれど、決して都会ってわけでもない、中途半端な故郷だ。19歳でその故郷を
離れた私が、この映画で妙に「あるある」と共感したのは、庭師がふいに口に
する同級生や友人の名前に、画家が反応できないところだ。

たまの帰省で会う小・中学校の同級生は、小学校の教師をしている。昔の同級
生が父兄にいるとか、昔教えてくれた先生が上司になったとか、いついつの隣
のクラスの誰々が非常勤で働きに来たとか、そんな話をよくしてくれる。いろ
いろと繰り出される名前を、私は把握するのに何秒かタイムラグがあって、そ
の名前から昔の思い出をたぐりよせるのに、けっこう苦労する。

あるひとところにずっと住んでいると、記憶がずっとひと揃いで続く。住む場
所を変えると、自分でも気づかないうちに、思い出は断絶されてどこかに追い
やられている。いいとか、悪いとかいうことではないのだが、すぐにピンとこ
ない名前たちに、そんな記憶の差を思うことがある。

大きな変化があるわけではないゆったりした物語は、観る人によって、さまざ
まに捉えられそうだ。今、緑を欲している人には緑を、故郷を懐かしむ人には
故郷のあたたかさを、旧友を思う人には旧友の心強さを。夫婦関係に苦しむ人
には仲直りの道筋、てものある。
みたいものを、みせてもらい、考えさせてもらい、のんびりと観るのが合って
る作品かな。

■INFORMATION
☆DVD
画家と庭師とカンパーニュ
価格:¥ 3,775(定価:¥ 4,980)
http://www.amazon.co.jp/dp/B001S8SFHS/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

☆コメントくくださった方へお返事
〇 さま
ありがとうございます。最後の一言コメントは、楽しみにしてくださる方が実
は多く、私も最も力を入れるコーナーで……というのはウソ、これからも気楽
に近況報告を続けていきます。たまに忘れますが。(このコーナー、blog版や
サイトのバックナンバーにはありません。ごめんなさい)。
ラッキョもいいですねえ。おいしいものができたら教えてください!

じゅんこ おおくぼ さま
『家族の肖像』は、いろいろな角度から楽しめる要素がつまっています。ご覧
になったら、またぜひ感想を聞かせてくださいね。

kaede さま
映画の使用言語の件、そうなんですよね。言葉が伝えるのは意味だけではなく
て、音や雰囲気も含まれていますから、やっぱり、その物語の風土として現地
語、実際にそこで使うであろう言語の方が、しっくりくると思います。

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