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欧 州 映 画 紀 行
                 No.210   09.06.19配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 罪悪感が笑いのスパイス ★

作品はこちら
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タイトル:『奇人たちの晩餐会』
製作:フランス/1998年
原題:Le dîner de cons 英語題:The Dinner Game

監督・脚本:フランシス・ヴェベール(Francis Veber)
出演:ジャック・ヴィルレ、ティエリー・レルミット、カトリーヌ・フロ、
   ダニエル・プレヴォスト、フランシス・ユステール、
   アレクサンドラ・ヴァンダヌート
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■STORY&COMMENT
出版業で成功しているピエール・プロシャン。「バカ」を探し出してきて仲間
と笑いものにする晩餐会が毎水曜の楽しみだ。
今回の「バカ」はマッチ棒細工が大好きなフランソワ・ピニョン。晩餐会当日、
プロシャンは、ぎっくり腰で動けなくなり、さらに妻が愛想を尽かして家を出
るという憂き目にも遭い、自宅でピニョンと過ごすことに。
ピニョンと、彼に振り回されっぱなしのプロシャンのやりとりが楽しいコメディ。

最近DVDになったラフマニノフの映画で書くことを予定していたのだけれど、観
てみたら、あんまり私の好みではなかったので、急遽、なんかないかなと探し
て、CSチャンネルでやっていたこの作品に。
実をいうと、この作品、公開された頃に観たとき、面白いは面白いけれど、ど
うも根本のところでノレなかったのだ。だから、今までメルマガでも取り上げ
てこなかったのだけれど、今回改めて観てみたら、なーんのひっかかりもなく
楽しめた。

この「バカ」フランソワ・ピニョンは、
・熱中すると話がとまらなくなる
・そして、熱中すると直前の会話やできごともすっかり忘れる
・今風にいうと「空気を読めない」、人が迷惑がる可能性を察知しない
・根は善人かもしれないがとにかく間が悪くておせっかい
等の性質を持ち合わせていて、

腰痛のプロシャンを助けようとしてよけいひどいことになったり、出て行った
妻のことで役に立とうとして、これ以上ない最悪の結果を引き出したり、キャ
ラクターの立ったよくできたシチュエーションコメディだ。

この作品の肝は、もちろん、このピニョンのキャラクターだが、それに付随す
る要素として、人の罪悪感を刺激するブラックさがある。

本人は何の自覚もしていないちょっと変わった人を集めてきて、こっそりバカ
にして楽しむという悪趣味なプロシャンを見せられて、観客は軽く嫌悪感を抱
く。豪奢な家や金持ちの趣味ゴルフ(フランスでは日本ほど一般的なスポーツ
ではない)と、装置もしっかり揃う。
だが、ピニョンが登場して、実際にいろいろかき回してくれると、「こいつホ
ントにバカだ」と、「バカ」呼ばわりすることも果たして間違いじゃない、と
いう気がしてくる。
だから、知らず知らずのうち、プロシャンの悪趣味に観客は参加させられるわ
けだ。鼻持ちならない金持ちの道楽の共犯となって、奥の方にある罪悪感がチ
リチリとする。

この作品で生まれる笑いは、そういうギリギリのバランスのところに作られて
いる。おかしいところは、罪悪感が手伝ってさらにおかしく、しかし、それに
耐えられなければ、「なんだか笑えない」となることもあるだろう。

前に観たとき、なんで私はノレなかったかというと、きっと、罪悪感に耐えら
れなかったのだろう。ピニョンを演ずるジャック・ヴィルレが、あまりに自然
で、なんだかピニョンに本気でイライラしてきてしまったから、笑うよりも、
実は日常生活で誰かを「バカ」呼ばわりする己の姿を見せられたようで、辛く
なったのかも。
現在の私は、ちょっと成長して心が広くなったんだろうか。罪悪感のチリチリ
を片腹に感じながらも、それをブラックな味付けとして、楽しく吹き出しつづ
けた。

物語は最終的に、観客が最初にいだいた嫌悪感を裏切らない。「バカ」はバカ
にされるだけじゃなくちゃんと反撃する。そして、その後のオチもしっかり。
鬱陶しい梅雨時は、笑って元気を取り戻す、てのもおすすめです。

■COLUMN
フランシス・ヴェベール監督にとって、「フランソワ・ピニョン」という名は、
大切なものらしい。脚本も書くヴェベールの作品には「フランソワ・ピニョン」
という登場人物がたびたび出てくる。
同じキャラクターというわけではなく、それぞれの物語でそれぞれのキャラク
ターを持っているのだが、名前は同じ。

このメルマガで以前取り上げた『メルシィ!人生』で、ゲイと偽って、世間体
を気にする会社から、リストラ撤回を勝ち取ろうとする主人公が、フランソワ・
ピニョンだった。

ピニョンが出てくる作品は、私もこの2作しか観たことがないのだが、世間で
はちっとも相手にされない冴えない人物なのだけれど、周りを巻き込んでいつ
の間にかその事件の主役になるようなキャラクターが共通項としてあるんじゃ
ないかと思う。

『奇人たちの晩餐会』は、「バカ」をバカにするブラックな面を持っているが、
その底には、世間ではとるにたらないと評価されそうな小さな庶民への優しい
眼差しがある。
だから、ヴェベールファンは、「フランソワ・ピニョン」という登場人物の名
前を聞いただけで、ワクワクするのだろう。

同じ名前だけれどキャラクターは別、という使い方は、他ではあんまり思い当
たらないけれど、そういうのも面白い「シリーズ化」だと思う。

■INFORMATION
☆DVD
奇人たちの晩餐会 リマスター版
価格:¥ 3,587(定価:¥ 3,990)
http://www.amazon.co.jp/dp/B00009V9FA/ref=nosim/?tag=oushueiga-22

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編集・発行:あんどうちよ

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