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欧 州 映 画 紀 行
                 No.211   09.06.26配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ スローなギャング映画はいかがですか ★

作品はこちら
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タイトル:『人生に乾杯!』
製作:ハンガリー/2007年
原題:Konyec 英語題:不明

監督:ガーボル・ロホニ(Gábor Rohonyi)
出演:エミル・ケレシュ、テリ・フェルディ、
   ユーディト・シェル、ゾルターン・シュミエド
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■STORY&COMMENT
81歳の夫エミルと70歳の妻ヘディ。社会主義が崩壊したハンガリーでは、年寄
りが年金では暮らしていけず、家賃を払うのにも苦労し、毎日取り立てから逃
げている。かつて運命的な出会いをした二人だが、苦しい生活のなかですっか
りぎすぎすしている。
ついに二人の思い出のイヤリングが借金の形にとられたとき、エミルは郵便局
で強盗することを決心する。不思議な老人カップルギャングの誕生だ。

共産党幹部の運転手をしていたエミルの愛車は、1950年代のチャイカ。そんな
車を走らせて、「カーチェイス」ぽいこともある映画なのだけど、老人を描い
た作品らしい、どことなーくスローな感じがいい。

生活苦から強盗を思いつくエミルだが、要求のつきつけ方は紳士的。
テレビのニュースで夫の行動を知り、一度は警察に協力するヘディは、途中で
警察を振り切って共に逃避行の道を歩む。
「こんな生活には耐えられないから、強盗してやる!」てな感じでの、夫婦の
「決心の瞬間」や「社会への憤り」はなし、そろーりと黙って強盗をやりはじ
めた夫に、あらためて夫にかっこよさを認めて、おもむろにくっついていっしょ
に行動する妻。ふつうのクライム・ムービーには絶対に見られない独特の雰囲
気の「スロー」だ。

ギスギスしていた関係も、二人に目的ができた今、昔のようにいたわり合い、
思いやり合う関係に変化する。逃避行の合間に仲睦まじく会話をする様子には、
盛り上がるシーンでもないのにホロリとくる。
そうするうちに、ささいな言い合いや、焼きもちやらも復活して、自然で平和
な夫婦の生活がすっかりなじむ。逃走中の二人ということを忘れそうなほどに、
円熟の暮らしが見える。

強盗とスローな老夫婦、タイミングの悪い警察、「老人の生活の苦しさを世に
知らしめてくれた!」と二人を応援する世論など、コミカルなエピソード群に、
二人を追う警察官のロマンスと、ちょっぴり意外なオチが加わって、飽きのこ
ない娯楽作品にできあがっている。

でも、単なる娯楽作品じゃない。長く長く人生をともにしたカップルならでは
の関係が沁みいる。
重くはないけれど軽いともいいきれない。ちょっとした「ひっかかり」を心に
残してくれる作品である。

■COLUMN
外国の映画を観て、その国の風土を垣間見るのが、このメルマガのテーマでも
ある。
ハンガリーの映画というと、今までに、このメルマガでは『カフェ・ブダペス
ト』
『君の涙ドナウに流れ ハンガリー1956』という2作を取り上げたことが
あって、たぶんこの『人生に乾杯!』が3作目のハンガリー映画だ。そのなかで、
ハンガリーローカルの雰囲気が最も薄いのが、この映画だ。

外国映画を観るときには、文化や風土の違いだけじゃなく、遠い国と自分が慣
れ親しんだ国との共通点を見つけることにも、楽しみがある。この映画は、
「ハンガリーって、こんな国なんだ」という驚きや興味よりも、「ああ、どこ
もいっしょだね」とうなずいて楽しむところが目立つ。

もちろん、「社会主義が崩壊した」という特殊事情は、年金を管理する役人が
無能だったという日本のしょぼい特殊事情とは比べものにもならないが、「年
金だけでは暮らせない」という不安が現実のものになっていることは、この国
でも同じだ。年金の問題は、役人たちが記録をしっかりつけていたとしても、
制度として崩壊しそうであることで、そうした社会保障費に困っていることは
どこの国でも同じだろう。

そして、国を騒がせる犯罪がテレビで逐一報じられ、その感想を一般の人たち
がインタビューで語り、世論が作られていく、こんな社会もどこの国にも共通
のことだ。
ヘディが近所の友だちといっしょに見るクイズ番組は、「ミリオネア」。
日本ではみのもんたの司会でおなじみの、世界共通のクイズ番組だ。

東欧の異国情緒を求めるのも、お門違いではないが、いまやEU加盟国であるハ
ンガリーは、グローバルに共通な課題をかかえ、「世界のどこの国にも似てい
る」国のひとつである。おそらく作り手は「世界共通のテーマ」であることを
意識して作ったんじゃないか。だからこそこんな極東の国まで、この映画が届
いたのかもしれない。

とはいえ。
逃避行の物語はロードムービーでもあり、ハンガリーの風景を眺める楽しみに
は事欠かない作品。外国の景色がお好きな人にもおすすめ。

■INFORMATION
☆新作映画です。
東京・シネスイッチ銀座、愛知・名演小劇場、山口・シアター・ゼロにて
公開中。全国順次公開予定。
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/kanpai/index.html

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7月1日〜3日まで、配信機能を停止します。
それに便乗し(?)来週はこのメルマガも配信をお休みします。

次は7月9日(木)にお届けする予定です。
ここのところ毎週金曜に配信がずれていたので、その「ずれ」も直せれば。
それでは、また次回をお楽しみに。
よろしくお願いします!


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編集・発行:あんどうちよ

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