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欧 州 映 画 紀 行
                 No.215   09.08.03配信
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観る時間と書く時間が取れなくて、遅れた配信です。ごめんなさい。

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 夢のような恋愛を、夢みたっていいじゃない ★

作品はこちら
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タイトル:『正しい恋愛小説の作り方』
製作:フランス/2006年
原題:Toi et moi 英語題:You and Me

監督・共同脚本:ジュリー・ロープ=キュルヴァル(Julie Lopes-Curval)
出演:マリオン・コティヤール、ジュリー・ドパルデュー、
   ジョナサン・ザッカイ、エリック・ベルジェ、シャンタル・ロビー
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■STORY&COMMENT
通俗的な恋愛小説を書く姉アリアンヌと、オーケストラでチェロを弾く妹レナ。
アリアンヌは、銀行員の恋人ファリドと、将来をともにしたいと思っているけ
れど、どうも乗り気ではなさそうな彼にいらいらを募らせている。
同棲中の教師のフランソワと将来の話もするレナは、ロンドンへの演奏旅行で
出会ったマルクと、いい雰囲気に。アリアンヌを慕うスペイン人青年も現れ、
姉妹の恋模様はいかに……

劇場未公開作品で、ポップでおバカなパッケージ。軽い映画を観たい気分だっ
たから、ハズレならそれでもいいや、と思って観たら、意外と好みの作品だっ
た。
ちょっとベタだけど、声に出して笑えるコミカルなせりふ運びと、恋愛中の
「かわいらしさ」と「みっともなさ」の同居した姿の描写、そして、軽くてシ
ンプルなラブコメと思いきや、その予想を裏切る展開のあるところ。

姉妹にはそれぞれ相手がいて、その相手の欠点や難点がわかりやすく示されて、
新しい人が二人ともに接近する。おお、これは安心して観られるラブコメの王
道、笑ってハラハラしてハッピーエンド? とはじめは思った。
けれど、そうはいかない、ちょっと込み入った恋愛と人生の妙を見せてくれる
「フランス映画気質」が私は好きだ。

この映画がコミカルな雰囲気を出している大きな要素に、アリアンヌの書く小
説がある。アリアンヌは「トワエモワ」(これが原題)という雑誌に、「ロマ
ン=フォト」というジャンルの恋愛小説を書いている。
ちょうどマンガのようなコマ割りで、登場人物を仰々しい背景と仰々しい衣装
とで写真に撮って登場させる。内容はハーレークイン的な恋愛物なのだが、こ
のストーリーを考えるのに、アリアンヌは、自分やレナや自分の恋人やらを写
真のモデルのように妄想しているのだ。

だから、この映画に出てくる人たちは「劇中劇」のように、ロマン=フォトの
登場人物も静止画で演ずるわけで、その陳腐でかつ夢のような話のなかで、笑っ
ちゃうような衣装をつけている。

その滑稽な妄想が、この作品のカラーを作り、がっちり物語の芯に絡むうちに、
あるテーマが見え隠れする。夢のようにできすぎた恋愛なんてないけれど、やっ
ぱりそんなできすぎた恋愛を望んでしまう甘っちょろい夢を、みんな持ち続け
たくて、現実はどうあれ、甘い夢や妄想を持って生きたっていいんじゃないか
な。
ちょっぴり急に展開する、観客に解釈の余地を残したラストで、私はそんなこ
とを考えた。

■COLUMN
不器用で、自信にちょっぴり欠けていて、人とのコミュニケーションをうまく
こなせない人には、結構な確率で人は共感する。

妹のチェリスト・レナを演じたのは、マリオン・コティヤール。エディット・
ピアフ役で世界的な女優となった彼女は、目鼻立ちがはっきりしていることも
あって、強い女、はっきりした女の役が多いイメージがある。
でも、この作品では、うぶで気が弱くて、気になる人(ロンドンで出会ったマ
ルク)に、素直に近づくことができない、ぐずぐずした女の子をイメージぴっ
たりに演じている。

姉のアリアンヌは、ハデで、とんちんかんな対応や勘違いが多いけれど、基本
的にいい人で憎めないキャラクターだ。
乱暴に言ってしまうと、姉の方は、物語をひっかきまわして面白くしてくれる
キャラクターで、妹の方は、多くの人が感情移入できるキャラクターなんじゃ
ないかと思う。別に誰にも感情移入なんかしなくったって、もちろん映画は楽
しいけれどもね。

妹レナは、プロのチェリストではあるけれど、ソロの演奏なんてとんでもない
と思いこんで自分を閉じこめている。気になる人に真正面からぶつかれない割
に、矛盾するかのように大胆にもなって、やっぱりその後、ぐずぐずする。
それらは作り手が意識的に用意した感情移入のポイントだと思う。

なぜなら、不器用で、自信にちょっぴり欠けていて、人とのコミュニケーショ
ンをうまくこなせない人には、結構な確率で人は共感するから。

誰かとたまたま少し深い話になったとき、よく驚くことがある。
「人間関係をうまくわったっていくのが下手なこと筋金入り」と自分を評価し
ている私だけれど、そんな私自身のことを相手に話せば、「私もね」と、「人
間関係、コミュニケーションが苦手」と自認しているという人がいかに多いか。
傍目には、なめらかな会話とそつのない笑顔と周りへのサービス精神で、人と
スマートに接しているようにしか見えない人がだ。

と、ここまで書いて、それは、私とちょっと本音を解き放ち合うような人たち
の性質かな、とも思うけれど、まあ、一般化してもそんなに大きくは外れてな
いだろう。

きっと、皆それぞれ、人間関係対処における苦手な部分というのを、ぐいーん
と肥大化して、「苦手だよ、下手だよ」と心で思っているのだろう。人との関
わり方というのは、誰にとっても、大きくて、かつ繊細な問題だからだ。

映画を観て自分が共感するところを冷静に観察してみると、今の自分の問題
(少なくとも自分が問題だと自分について思っているところ)が浮き彫りにさ
れる。怖いような。おもしろいような。
私はそんな風に観察してみたら、我ながらちと、イタかった。

■INFORMATION
☆DVD
『正しい恋愛小説の作り方』¥3,990
http://bit.ly/14iTRy
短いURLにしていますが、Amazonの商品ページにリンクしています。

☆コメントくださった方にお返事
melk さま
「打ちひしがれ仲間」がいてよかった(笑)。
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ことはありません。こちらこそありがとうございました。

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次の配信は8月13日(木)の予定です。(早いなー、もうお盆ですね)


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