一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.217   09.08.22配信
================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 純粋に「気持ち」そのものをすくい上げるのなら ★

作品はこちら
------------------------------------------------------------
タイトル:『アヴリルの恋』
製作:フランス/2006年
原題:Avril 英語題:April in Love

監督・脚本:ジェラール・ユスターシュ=マチュー(Gérald Hustache- Mathieu)
出演:ソフィー・カントン、ミュウ=ミュウ、ニコラ・デュヴォシェル、
   クレマン・シボニー、リショー・ヴァル
-------------------------------------------------------------

■STORY&COMMENT
赤ん坊の時に修道院に捨てられて、そこでそのまま育ったアヴリルは20歳。こ
れから2週間、礼拝堂にこもって断食して建物を清める儀式を終えると、正式
に修道女となる。
しかし、先輩修道女に、アヴリルが捨てられていたとき、双子の男の子がいた
という事実を伝えられ、アヴリルは礼拝堂を抜け出し、まだ見ぬ兄弟に会いに
行く。

外の世界に出たことのなかったアヴリルは、行き倒れになりそうなところを、
たまたま通りかかったピエールに助け出される。ピエールが運転手を買って出
て、兄弟捜しは難なく成功。兄弟のダヴィッドと、その恋人のジム、4人の休
暇が、アヴリルの新しい人生のはじまりだ。

偶然出会うピエールがやたらにいい人だったり、はじめに“ぎくしゃく”があ
るにせよ、ダヴィッドも恋人のジムもすごくいい人だ。
何も知らないアヴリルにとって、外の世界は危険がいっぱい。そのなかで、あ
ぶない目にもすごく悲しい目にも遭わずに、新しい人生を切り開くきっかけが
できたのは、そんなあり得ないいい人との出会いのおかげで。それが不自然だ
という批判はあるだろう。
だけれど、私はこれを不自然とは思えない。この物語が伝える肝は、このいい
人づくしの設定だから、伝わるものなのだ。

『アヴリルの恋』は、純粋に「気持ち」を抽出することに挑戦している映画だ
と思う。
異性に惹かれる気持ち、初めてのことに戸惑う気持ち、人との摩擦にたじろぐ
気持ち、自分の心を解き放ったら気持ちのいいこと。
特に恋心なんて、実際に初恋をする年齢では、すでに、自分をよく見せようと
か、どんな服を着ようか、てささいなことも含めた<企み>にあふれてしまっ
ていて、恋を描くとは、そんな<企み>やそれが成功したり失敗したりの一喜
一憂を描くことと同義になりやすい。

そうした恋の周囲のできごとではなく、恋する心を抽出するのなら。
外の世界に触れたことがなく、唯一の恋の相手は幼い頃に読んでもらった『名
犬ジョリィ』のセバスチャン、しかし、ちゃんと恋できる肉体も持っていると
いう特殊なヒロインに、彼女を決定的に傷つけることのない外の人を作る必要
がある。

ゲイのカップルにも特に驚かない、賛美歌しか知らない世界から抜け出て、ポッ
プな音楽に体を乗せる、波が冷たく怖かった海にも自由に体をゆだねる。スポ
ンジのように周りの状況や新しい行動様式を吸収していく様子は、まるで子ど
もの柔軟性を持つようだ。

周りを気にするとか、人の思惑のバランスをとるとか、余分な作業とは無縁の
純粋に「核」である気持ちをダイレクトにすくい上げる。そうすることで、恋
心だけじゃなく、戸惑いも、楽しみも、いっそう強くピュアに、観る者に響く。
最近、人を信じられなくなっている人に、あえて勧めたくなる一作だ。

ところで、いい人づくしの登場人物のなかで、唯一、悪を押しつけられている
のが、双子であることを隠し、母の存在を隠し、アヴリルを自分好みの聖女に
仕立てんとする修道院の院長だ。
この院長のおかげで、物語の終盤は、トーンが変わっていっきょに目を離せな
い展開となる。それは、いい人ばかりに囲まれて新しい人生を決意したアヴリ
ルが、現実に自分の人生を歩もうとする時の痛みなのか。ラストシーンをどう
捉えるかは、人によるだろう。余韻も楽しみに。

■COLUMN
アヴリルは、絵を描くのが得意。本を白く塗りつぶしてスケッチブックにして、
毎夜こっそり絵を描いている。
そんなアヴリルを偶然道で助けたのが、画材店の配達人であるピエールだ。ア
ヴリルはその画材店の色見本をもらったことがあり、この色が好き、と色の名
前をいくつも挙げてみせる。青系の色を挙げるアヴリルに対し、赤系の色を次
々と挙げるピエール。絵が好き、色が好き、とわかるこの時、お互いに好感を
抱いた。
やがて恋に発展する二人の関係には、この出会いのきっかけとなった「色」が
ずっと後にも重要なキーになる。

絵心のさっぱりない私、図工や美術の時間は大嫌いだったが、「色鉛筆」は大
好きだ。アヴリルとピエールが出し合うような、神秘的なネーミングをされた
色、微妙な濃淡の違いの別々の色、などなど、36とか48とか、多色セットの色
鉛筆を見るとわくわくしてしまう。
どのみち使う用事はないのだけれど、デフォルトの並び方をちょっと変えてみ
たり、系統の違う色を1本置きに配置してみたり、うーん、愉し。そんなこと
だけで、東京〜名古屋の新幹線車中は退屈しないんじゃないかな。
色数が多くなくても、色鉛筆セットというだけで気になって、文房具店のセー
ルのワゴンに12色の色鉛筆セットが放り込まれていると素通りできない。

そんな私だから、ちょっと前に500色色鉛筆なるものが売り出されているのを見
たときには、「うわ、これはすごい、ほしぃー」と思ったが、どっちみち並べ
て楽しむだけ(使いたかったら、とっとく用と使う用の2セット買わなきゃ)、
もったいないから、やめておこうと、あまり詳細も見ないことにした。
あれの評判はどうなんだろう。

いろいろな色があること、その色に素敵な名前がついていることを、おもしろ
がって、おもしろがることを理解してくれて、いっしょに呪文のような色たち
を唱えてくれたなら。そんな人には私もきっと、一挙に好感を持つだろうなあ。
小さな小さな琴線って、日頃は気にもとめてないけれど、きっとみんなそれぞ
れ、いろいろ、持っている。

■INFORMATION
★DVD
『アヴリルの恋』定価:3990円

★Twitterやっています
ちょっとしたことをつぶやく<ミニブログ>Twitter。お気軽にフォロー下さい。
http://twitter.com/chiyo_a

★今回のメルマガ、気に入ったらクリックを(コメントもぜひ!)
http://clap.mag2.com/caemaeboup?S217

★次回配信のおしらせ
次回のメルマガ配信は、9月3日(木)の予定です。


---------------

感想、質問、リクエストなど、なんでもお待ちしております。筆者にメール

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2009 Chiyo ANDO

----------------


一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME