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欧 州 映 画 紀 行
                 No.220   09.10.15配信
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ 愛が欲しいのは大人も同じ ★

作品はこちら
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タイトル:『僕がいない場所』
製作:ポーランド/2005年
原題:Jestem 英語題:I Am

監督・脚本:ドロタ・ケンジェルザヴスカ(Dorota Kedzierzawska)
出演:ピョトル・ヤギェルスキ、アグニェシカ・ナゴジツカ、
   バジア・シュカルバ、エディタ・ユゴフスカ
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■STORY&COMMENT
孤児院にいるクンデルは、詩人を夢見る繊細な少年。友だちとも教師ともうま
くいかず、孤児院を抜け出し母のもとへと逃げ込む。しかし町中の男をベッド
にひきずりこむことに忙しい母は完全に育児放棄している。
置き去りにされた船に住み着き、くず鉄を集めて一人で生きることにしたクン
デルだが、近所の裕福な家の少女と交流するようになり……

クンデルに興味を持って船に遊びにやってくる少女は、美人で成績のよい姉に
比べて自分は容姿も頭もイマイチ、だから家でも学校でも孤独で、同じように
孤独を抱えるクンデルに親近感を覚えている。
現代の子どもの孤独を描いた秀作ということに、映画の宣伝文句ではなってい
るけれど、「子どもを描いた映画」という感じはあまりしなかった。
これは、私がそう感じたというだけで、他の人がどう感じるのかは、わからな
い。

大人からの愛に飢え、同年代の子どもからのいじめに怯え。それって、子ども
特有のことではなくて、大人も同じだ。愛されたい人に愛されず、愛してくれ
ているはずの人の愛も保証されず、誰かにかまってほしいけれど、みんな自分
の生活がいそがしい。相手にしてくれる人は、悪意を持ってからかってくる奴
ばかり。

クンデルのように自他共に認める完全な孤独でなくとも、人間関係への不全感
や不安感、自分がひょっとしたら要らないんじゃないかという思いを抱える人
は案外多い。私もその一人で、何かある度に首をもたげてくるそんな不全感を、
画面のクンデルにシンクロさせながら観て、ポロッと涙がこぼれるところもあっ
た。
「人との関係」に敏感な人ほど、「子どもの物語」というより「自分の物語」
と捉える傾向が強いんじゃないかと思う。

「人との関係」にこの物語自体がとてもセンシティブになっていることは、物
語の展開のしかたにも現れている。
いわゆる「ヨーロッパ映画っぽい」淡々と少年の生活を映し出す起伏の少ない
物語だが、ここで少し話が動いてくな、というところに、必ず、誰かとのコミュ
ニケーションがある。
ずっと否定されることが日常だったところに、肯定や心配の言葉がかけられる、
少年を覚えていて誰と認めてくれる、そんなところから前半のクンデルの物語
は動き、やがて一人の生活がなじんでくる頃、物語を動かすのは、信頼や期待
のあとにもたらされる他者からの拒否や否定だ。

信頼や期待のあとの孤独の方が、相対的には辛い。孤独を描こうとすると、他
者との関係や、関係を変化を捉えるようになる、てことだろうか。

ここに描かれている「孤独」、観る人によって感じ方は異なるだろう。どう感
じたか、観たらぜひ感想を教えてくださいね!

■COLUMN
この作品、世界的な知名度ではたぶん、監督より、監督の夫である撮影監督兼
プロデューサーより、音楽担当のマイケル・ナイマンがいちばんだろう。

私は今まで、マイケル・ナイマンの音楽を、特別好きだとも、特別気に入らな
いとも、感じたことはなかったのだけれど、この作品の音楽は、とっても面白
いなと思う。
クンデルの心情を表すんであれば、もっと暗くどんよりとした曲がきそうなと
ころ、田舎町のすさんだ風景を音楽にするんなら、もっとさびしくなりそうな
ところ、素朴で優しいピアノの音が響く。画面にくり広げられる物語からした
ら、ちょっと脳天気に思えそうなほど。

でも、それは物語と合わないというのではなくて、物語へのひとつの解釈、あ
るいは働きかけのように感じる。
以下はあくまでも私が感じたことだけれど、クンデルにあるいはあったかもし
れない輝く少年時代を連想させたり、クンデルが味わう現実のそばにある、ふ
つうの生活を思わせたり、悲しい思いをそっと拾い上げるかのように音が鳴っ
たり。ストーリーや映像で描ききれない世界を、音楽で描いているように、私
には思える。

音楽という要素を足すことで、作品の層が厚く、作品世界が深くなっている、
そんな印象を持った。マイケル・ナイマンの関わった作品を、もうちょっと意
識的に観てみようかな、なんてことも、今考えている。

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