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*** 欧 州 映 画 紀 行 ***
                 No.053
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「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。


★心にためる今週のマイレージ★
++ 拝啓 ごちゃまぜの世界から ++

作品はこちら
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タイトル:「スパニッシュ・アパートメント」
製作:フランス・スペイン/2001年
原題:L'Auberge espagnole
英語題:The Spanish Apartment (USA)  Euro Pudding (UK)

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)
出演:ロマン・デュリス、セシル・ドゥ・フランス、ケリー・ライリー、
   ジュディット・ゴドレーシュ、オドレイ・トトゥ
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■STORY
25歳のグザヴィエは、パリのエリート大学生。コネを使って官僚になろうとし
たら、スペイン語とスペイン経済を勉強しろ、と勧められ、1年間のバルセロ
ナ留学をすることになる。

期待と不安に胸ふくらませて到着したバルセロナでは、トラブルだらけ。住め
るはずだったアパートは、話と違って長く滞在できるところではない。
自力でアパート探しをはじめた彼の心をとらえたアパート、そこはイギリス、
イタリア、デンマーク、ドイツなど、ヨーロッパ中から学生が集まって生活を
するアパートだった。

計7カ国から集まった男女の賑やかではちゃめちゃな共同生活は、何か新しい
刺激のある予感……。

■COMMENT
原題の、L'Auberge espagnole、文字通りに訳すと「スペインの宿屋」だが、こ
れには「ごちゃまぜ」「混沌」の意味があるという。多国籍の若者が暮らすこ
のアパートが、その「ごちゃまぜ」にあたるのはもちろん、この映画には、世
の中の「ごちゃまぜ」や「混沌」がふんだんに出てくる。

グザヴィエが交換留学プログラムに申し込む際の、ごちゃごちゃと書類ばかり
が多い手続きしかり、異性愛、同性愛、肉体のみの愛、人の数だけ存在する登
場人物たちの恋愛のかたちもしかり。若者の特権である弾けた青春のドタバタ
もあり。
楽しいことも面倒なことも、複雑極まりない「ごちゃまぜ」の中に成り立って
いる、そんな現代社会がしっかり詰め込まれている。

舞台となるバルセロナも「混沌」の街。古さと新しさが共存した刺激的な「ご
ちゃまぜ」風景の上、スペインの大都市にありながら、マドリードで話される
「標準スペイン語」ではなく「カタロニア語」が話される。交換留学でやって
きた学生が「標準スペイン語」を話してくれと要求しても通らない。「ここの
公用語はカタロニア語。標準スペイン語がよけりゃマドリードか南米に行け」
と言われてしまう。スペイン人であって、カタロニア人、アイデンティティも
二重三重だ。ヨーロッパの学生たちが交換留学で行き交う今、どこにあっても、
そこにヨーロッパ人のアイデンティティも加わるのかもしれない。

いろいろな国の人たちが集まれば、多かれ少なかれ問題になるのが「〜人って、
こうでしょ」という偏見、もしくはステレオタイプな認識。そんなトラブルも
この作品では面白く描かれている。

たとえ多国籍じゃなくっても、いろんな人が「ごちゃまぜ」に集まって生きる
のは、現代の私たちに課された宿命だ。「ごちゃまぜ」で「混沌」の世を、ど
う受け入れて、どう自分のモノとして生きていくのか。しかも「ごちゃまぜ」
の魅力はなくさずに。事なかれ官僚になろうとしていたグザヴィエの、成長の
物語でもある。

グザヴィエが、親しくなったフランス人女性を、観光地に案内するシーンがし
ばしば登場する。抜けるように晴れた空の下、バルセロナを訪れた気になれる
のもうれしい。いろんなものをいろんな具合に詰め込まれた楽しい作品。留学、
多国籍疑似体験にもうってつけだ。

■COLUMN
グザヴィエが参加する交換留学プログラムは「エラスムス計画」というもので、
EU内の学生、教員の相互交流を盛んにし、EU全体で人材育成をはかろうという
計画だ。年々参加者は増え、ヨーロッパ内での人の交流は今後もどんどん進み、
成果も出ているという。

多国籍でにぎやかに暮らすこんな留学生活が送れたらどんなにいいだろう、と
映画を見て心底思った。しかし「多国籍」というカッコイイ響きに憧れるだけ
で、よく考えたら、日本国内で日本人同士でも面倒くさくてルームシェアなん
かできない私であることを思い出す。

それでも多くの国の人が交流することは素晴らしいと思うし、自分が留学しな
くても、日本にやってくる他国の人と一緒に暮らしてみれば、多国籍アパート
メントは作れるはず。
しかし、そもそも日本人は(っと、これも「〜人って、こうでしょ」のはじま
り。危ない危ない)、他人同士で上手く暮らすことに長けていないと思う。狭
くて壁の薄い住宅事情も手伝ってか、ルームメイトが部屋に恋人を連れてくれ
ば、どうしても気になる。相手の領域に踏み込まずに、でもいい関係で暮らす
ことは難しい。

これも簡単に一般化はできないけれど、と前置きが必要だが、日本の人は、暗
黙の内に「同じ」であることを求め合うところが強くて、あなたと私は違うん
ですよ、と宣言すると角が立つような印象を与えてしまう。クールに同居人に
なれず、なんとなく心地よい同調を求めている内に、お互いにストレスが溜まっ
てしまう、なんていうことが起きるんじゃないだろうか。

もちろん欧米でも上手くできる人ばかりではなく、その人の資質や状況による
のだろう。映画の中でも、パリから遊びに来たグザヴィエの恋人やイギリス人
住人の弟など外からの客は、多国籍で調和をとるこの暮らしになじめない。

多国籍にしろ、単一国籍にしろ、大勢でルームシェアしてワイワイというのは、
たぶん私にはずっと縁がないだろう。だけれど、<異なる背景>を背負った
いろいろな他人に会うときに、どんな身のこなしをしたらいいのか、
この「ごちゃまぜ」の世界はちょっとしたヒントになるかな、と思う。


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編集・発行:あんどうちよ

Copyright(C)2004-2005 Chiyo ANDO

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