一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム HOME


=========================================================

欧 州 映 画 紀 行
                 No.117
=========================================================

「ここじゃない何処か」に行ってしまいたい、あなたのための映画案内。
週末は、ビデオ鑑賞でヨーロッパに逃避旅行しませんか?
フランス映画を中心に、おすすめの欧州映画をご紹介いたします。

★ しっとりと静かに暮れる ★

作品はこちら
---------------------------------------------------------------------------
タイトル:『夕映えの道』
製作:フランス/2001年
原題:Rue du retrait 英語題:不明

監督・脚本(脚色): ルネ・フェレ(René Féret)
出演:ドミニク・マルカス、マリオン・エルド
----------------------------------------------------------------------------
  ケータイ等に作品の情報を送る

■STORY&COMMENT
パリの下町。広告代理会社を経営するイザベルは、ひょんなことから近所に住
む老人マドと知り合う。みすぼらしく暮らすマドに戸惑いながらも、イザベル
はマドと頻繁に会うようになる。

経営者としてバリバリ仕事をこなし、もう中年だけれど年下の恋人もいるイザ
ベルは、ふつうなら貧しい老女と接点などない。落ちぶれて洗濯もしなくなっ
てしまったマドに、はじめは嫌悪感を抱いたに違いない。はっきりそれとは示
されていないけれど、はじめて会った日にすぐに家でお風呂に入るところに、
その様子が見てとれる。

この作品はそんな風に、多くを語らず、何かを振りかざすこともなく、静かに
2人の交流を映し出す。交わることで2人は確かに変わる。でも何かが強烈に
変わる訳ではない。イザベル自身は、なぜ自分がマドにひかれているのかわか
らず、観客の目からも、本当のところは判然としない。

マドがうち解けるにしたがって語り出した彼女の人生に、何かを打たれたのか
もしれない。当たり前だけれど、長く生きてきた人には、その人の悲しみや喜
びが、若い人の何倍もあって、それぞれに恋をしたり、人と関わったり、いろ
んなことをしてきたのだ。マドの語りは、おばあちゃんの思い出話を思いがけ
ず聞くようで、不思議な懐かしさがある。

世によくいるおばあちゃんのように、これでもかと重ね着して厚着するマドは
可愛くておかしい。懲りずにすぐに癇癪をおこすわがままな様子も微笑ましい。
周りの人への不信に満ちて被害妄想に陥っているときの表情と、イザベルを信
頼して話しているときの表情と、まるで違いながらも確かに同じ人に宿ってい
る表情だ。こんな演じ分けをした主演のドミニク・マルカスが素晴らしい。

時折流れるギターのサウンドが、もの悲しく懐かしい気分を盛り上げる。しっ
とりと静かに年の暮れを過ごすのに最適な作品だ。

■COLUMN
世界に数ある都市の中でも群を抜いて、パリは映画の舞台によくなる街だ。
エッフェル塔や凱旋門など、行ったことがない人でも、それとわかる有名な観
光名所が随所に散りばめられて、ああ、パリだなあ、とちょっとした旅行気分
に浸ることもある。
一方、そうしたすぐにイメージに浮かぶパリじゃないけれど、何でもない人々
の生活が映し出されて、ほんとにここに生活している人がいるなあ、とその中
に入り込んだ気になれることもある。

この作品は後者の典型で、原題も実在する通りの名だ。しかも予算の都合もあっ
てか、イザベルのアパルトマンは実際にイザベル役のマリオン・エルドが住ん
でいるルトゥレ通りの住居で行われた。撮影はデジタル、スタッフ数人で済む
ため、市場も公園の散歩も、街中のシーンは街をそのまま撮影したという。

舞台となったルトゥレ通りをグーグルマップで見てみると、
H、C、E、とマーキングされている通りがそのルトゥレ通り。
地図をぐぐっと引いてみるとわかるけれど、パリの東端、やや北側。ルーブル
美術館もエッフェル塔もずっと遠い、庶民的な何でもないところだ。

でもその何でもないところも、物語の後は特別な場所になる。航空写真をズー
ムいっぱいにして、イザベルの住まいはどこだろうかと、まるで19世紀の生活
と揶揄されたマドはどの辺りにいたのだろう、と通りの上で視線をうろうろさ
せる。

グーグルで精密な航空写真を見られるようになって以来、映画で見た景色を鳥
のように探しに行くことが多くなった。
先日は、以前取り上げたことのある『シーズンチケット』という映画に出てき
たイギリスにある大きな「北の天使」という像を見に行って、なかなか見つか
らなくてすっかり2,3時間、最後は意地になって見つけ出した。像から伸び
る大きな影まで見られた時はうれしかった。

グーグルマップ(アース)で、映画の舞台を巡る特集、なんてのを書いてみる
のもいいかもなあ。

■INFORMATION
今年1年お世話になりました。
よい年をお迎えください。

来年は1月18日から配信の予定です。

---------------

感想・問い合わせはお気軽に。

編集・発行:あんどうちよ

リンクは自由ですが、転載には許可が必要です。
一部分を引用する場合には、連絡の必要はありませんが、
引用元を明記してください。

Copyright(C)2004-2006 Chiyo ANDO

---------------



一覧へ ←前へ →次へ 登録フォーム

HOME